動き出した中国の対台湾「文化統一」戦略

執筆者:野嶋剛 2009年12月号
エリア: アジア

キーワードは「中華文化」。中国と台湾で奇妙な共存を続けてきた「ふたつの故宮」の初共同展を機に、中国の統一工作が始まった。[台北発]中華世界において「文化」の影響力は日本人や欧米人が想像するよりはるかに大きい。なぜなら、「文化」こそが中華五千年の歴史を現在に伝える唯一の遺産であり、その保有者は歴史継承のレジティマシー(正統性)を証明できるからだ。過去に権勢を極めた中国歴代王朝の皇帝たちの多くが文物収集に血道を上げたのもそのためだった。 中華文化の粋を集めた故宮博物院は、中華の核心的価値である「文化」のありかを内外に広く知らしめる場所である。ところが現在、中国・北京と台湾・台北に同名の故宮博物院が存在している。「ふたつの故宮」の奇妙な共存は、中華を二つに割った共産党と国民党の内戦がいまなお未決着であることの証左でもある。

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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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