一九八六年にマルコス政権を打倒した「ピープル・パワー」は、二〇〇一年一月にはエストラダ大統領を退陣に追い込んだ。二度にわたる民衆運動を背後で組織化し新政権を誕生させたのは、フィリピンのカトリック教会といっても過言ではない。八六年に反マルコスを宣言したエンリレ国防相らへの支援を呼びかけ、二〇〇一年に反エストラダ集会を主催し、エドサ聖堂で開かれたアロヨ大統領の就任式典で新大統領に祝福を与えた人物こそ、シン枢機卿だからだ。 フィリピンがカトリック化されたのは、十六世紀末からの三世紀に及ぶスペイン植民統治時代だ。スペインはもともと香辛料の獲得とカトリックの布教を目的にフィリピンにやってきた。このうち香辛料は発見できなかったが、カトリック布教の目的は十分に達成したといえる。というよりもスペインの統治そのものが、カトリック教会によって支えられていた。地方行政制度と教区組織はほぼ重なり合い、教区の司祭は植民地支配の最先端に位置していたからだ。

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