中国の富豪は長生きできない

執筆者:野嶋剛 2011年7月24日
タグ: 中国 台湾

  「中国の富豪ランキング100」みたいなニュースが世間の耳目を集めるようになってから10年ほどになるだろうか。普通、富豪ランキングはあまり変動しないのだが、中国は違う。毎年のように顔ぶれががらっと変わり、数年たつと「あの人はいま」のような話にもしばしば話題にのぼる。

 究極の「あの人はいま」のような記事が、最近、中国の吉林省の新聞「新文化報」で掲載された。「富豪リストにのった人は死亡率が極めて高い」というニュースで、非常に面白かったので紹介したい。
 同紙は2003年以来、富豪ランクの上位に名前があがった人物のなかで、72人がすでに死亡していることを確認したという。どのランキングが資料のソースなのか書かれていなかったところが不満だったが、72人の全員の名前と死因を調べ上げて一覧表まで作っており、中国のメディアでは珍しく調査を徹底した記事だった。
 
 死亡した72人の富豪のうち、15人は他殺で、17人は自殺、7人は事故死、19人は病死、そしてなんと14人が死刑執行でこの世を去っていた。
 
 このうち病気で死んだ人々のうち、心臓疾患が最も多く、9人を占めていた。富豪は疲れるのだろう。17人という自殺も不思議なほどに多い。長時間の労働、仕事のプレッシャーなどが原因とみられ、7人が首つり自殺、5人がビルから飛び降りる方法で死を選んでいる。また、なかには悪事の発覚を恐れて自殺した者もいたという。
 
実際に悪事が発覚して死刑になった者も14人というのもすごい数字だ。しかし、最も恐ろしいのが、他殺の比率の高さかも知れない。記事によると、李海倉という鉄鋼会社の社長は、パートナーの過大な要求を拒否したところ、銃殺されたと伝えられている。造船会社の厳宝龍という人は知人の詐欺を見破ったところ逆に殺されてしまった。毛皮商で財を成した周祖豹という人物はビジネスパートナーに殺し屋を雇われて殺されてしまった。中国でお金儲けをするのは命がけということだろうか。
 
 病死の平均年齢は48歳、自殺は50歳、他殺は44歳、死刑は42歳、事故は50歳という低さ。昔は中国で「美人短命」と言ったが、いまは「富豪短命」と言うべきだろうか。中国で富豪になることは命がけなのである。(野嶋剛)
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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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