いきなり貧乏臭い話で恐縮だが、新聞記者を32年、自営の記者になって31年、私は「赤坂の店」に知り合いが1軒もない。銀座についても同様である。
呑まないわけではないが、呑むときは自分の器量の内で呑む。だから政治部記者に連れて行かれたこの晩のことは、鮮明に憶えている。
折から私は、ある小さい政治的スキャンダルを追っていた。細部は蒸し返すに及ばない。とにかく当時の衆議院議長が地元の高利貸しからヤミ献金を取っていた。週刊誌記者だった私は、それを取材し、政治部へ行って自民党担当の某君(故人)が仕事先から帰社するのを待ち、青臭い議論を吹っかけた。
黙って聴いていた彼は「徳さん、ちょっと出まひょ。まだ時間おまっしゃろ」と大阪弁で誘った。われわれは地下の車両部へ降り、そこから車で「赤坂の店」へ行った。
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