風が時間を
風が時間を (20)

まことの弱法師(20)

執筆者:徳岡孝夫 2017年11月23日
カテゴリ: 国際 文化・歴史 社会
エリア: 北米 日本

 鬱陶しい秋の夕暮れだった。図書館から寮に帰るところだったと思う。室友ロスと夕食に出かける時間である。

 部屋に帰るとロスが言った。

「サム、来てるよ」

 寮に入った最初の日、彼は「タカオは言いにくい。サムにしてくれ」と提案し、私は承知していた。

 来ている? 見ると私の机の上に紙片が一枚あり、ボールペンが載せてある。取り上げると

「ダンシアンザン ボシトモケンゼン」

 ワーッと思わず叫んだ。

「チップは渡してくれたのか」

「アッわすれた」

 机の上の辞書に1ドル紙幣が挟んだままになっている。「電報配達夫にやってくれ」と私が置いておいた1ドルである。60年前の常識ではチップは10セント。張り込んで25セント(クォーター)と決まっていた。電報屋はチップに気付かずに帰ったらしい。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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