大森さんは支局員2人と私を率いパーク・ビルへ歩いていった。車を停めるのが専門のビルで、当時の日本にはまだなかった。
ビルの入り口で大森さんはヘーイと女の子の名を呼ぶと駐車カードと一緒に窓口から手を差し入れ、女の子の手をギュッと握った。
「オー、ミスター・オモリ」と答えた女の子はニッコリ笑って手を握らせている。と同時に大森氏はビュッと口笛を吹いた。黒人の配車係がせわしなく動いて大森氏の車が真っ先に出てきた。その間、女の子はずっと手を握らせたままである。我々を車に乗せて走り出した大森氏に「凄いカオですね」と冷やかすと大森氏は平然と「チップやったるさかいな」と答えた。

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