風が時間を
風が時間を (37)

まことの弱法師(37)

執筆者:徳岡孝夫 2019年4月21日
エリア: 北米 日本

 大森さんは支局員2人と私を率いパーク・ビルへ歩いていった。車を停めるのが専門のビルで、当時の日本にはまだなかった。

 ビルの入り口で大森さんはヘーイと女の子の名を呼ぶと駐車カードと一緒に窓口から手を差し入れ、女の子の手をギュッと握った。

「オー、ミスター・オモリ」と答えた女の子はニッコリ笑って手を握らせている。と同時に大森氏はビュッと口笛を吹いた。黒人の配車係がせわしなく動いて大森氏の車が真っ先に出てきた。その間、女の子はずっと手を握らせたままである。我々を車に乗せて走り出した大森氏に「凄いカオですね」と冷やかすと大森氏は平然と「チップやったるさかいな」と答えた。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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