水代 優『スモール・スタート あえて小さく始めよう』
評者:東えりか(書評家)
起業の“小さなきっかけ”を
教えてくれるユニークな1冊
働き方改革の旗印のもと、多くの企業では長時間労働の見直しや生産性向上に取り組み、時短や在宅での勤務も珍しくなくなった。反対に誰もが知る大企業が経営不振に陥り、従業員は先行きの不安に怯えている。
そんななか、自分の半径1メートル内の身近な仕事をネットで始めるという話をよく聞く。主婦の間ではメルカリで小遣い稼ぎをするのはもはや当たり前のことになった。
まさに本書のタイトル『スモール・スタート』だ。サラリーマンの副業・兼業も徐々に認められている今、動き始めることの大事さを説き、さらに方法論を懇切丁寧に説明していく。
著者は今年で40歳のイベントプロデューサー。何万人も集まるようなイベントではなく、地域のコミュニティ作りやカフェの運営、地域や企業のPRの手伝いなど人をつなぎ、場を盛り上げることが本職だ。
はじまりはまだ会社員だったころ。葉山の居心地のいい海の家で、客から、店側に回り手伝いを始めたのがきっかけだ。平日は勤め人として、週末はその店のスタッフとして働き始めると、そこが第3の居場所になった。
たいがいの人は、家族と、会社や学校などもう1つのコミュニティ内で暮らしている。しかし3番目の居場所を持つことは、リフレッシュできるというメンタルな面だけでなく仕事におけるセーフティネットにもなりうるのを実感したという。
でも何をしたらいいかわからないという人は「やりたいこと、やらなくてはいけないことのある誰か」を助けることから始めることを勧めている。誰かから手伝ってほしいと言われたらチャンスだ。声をかけた人は、あなたにその仕事をする能力があることを認めているのだから。
起業をするときに最低限必要なのは自分1人。自分の強みを武器に自分の人件費だけで始められる、そして誰かの役に立つ。誰かのために働くのは、自分1人のためだけより頑張れる。
たった1つ守らなければならないこと、それは好きなことをやる、ということ。イヤイヤ始めたことは続けられるはずがない。
著者の開いた日本橋浜町のブックカフェ「ハマハウス」はビルのはざまの小さな建物だが、オープンカフェの屋上まですべて気持ちがいい。子連れのお母さんが食事をする姿が似合っていた。だが壁に並んだ本は一癖も二癖もある。
何かをやりたい、しなきゃと思っている人は、この本がいいきっかけを作ってくれるかもしれない。
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