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ロバート・ハリス『JJ 横浜ダイアリーズ』

評者:東えりか(書評家)

FMでおなじみナビゲーターの
“自伝的”長編小説

Robert Harris 1948年、横浜生まれ。作家、ラジオ・ナビゲーター。著書に『エグザイルス 放浪者たち すべての旅は自分へとつながっている』など多数。

 時は1964年、舞台は横浜。ジェイムズ・ジョイス高原(通称・JJ)は男子校の私立セント・フランシス・カレッジのハイスクール2年生、16歳だ。クラスメイトは日本人だけでなくアメリカ人や中国人、フィリピン人、イギリス人などもいてクォーターやハーフも多い。友人には親子代々カトリックの日本人ノリやジャン=ポール・ベルモンド似の中国人のモンド、モンドの彼女で本牧ベースに住むパメラ、ガタイのデカいハーフのゴジラなどがいる。
 父はイギリス人と日本人のハーフだが日本に帰化しており都内のJ大学の英米文学の教授。母は眼科医。双子の妹エリカと4人家族で白楽の白幡に住んでおり、父の書斎で本を読むことが好きだ。
 学校はカトリックで厳格だが、パーティなど華やかな行事には事欠かない。東京の大学に通う年上の優子に声をかけられたのも英国スタイルのカントリー・クラブで行われたパーティでのことだった。
 優子の父親はヨーロッパの高級食材を輸入する会社を経営しており、東京で暮らす優子は週末だけ父の住む横浜に戻ってくる。その夜、父親が不在の家で、性経験の浅いJJは優子のなすがままに抱かれ恋に落ちた。だが優子に会えるのは彼女から電話がかかってきた時だけだ。JJは恋しさに苦しみ深みに嵌っていく。
 敵対するグループもいる。時には派手な抗争もあり、停学にもなるがJJの心の中は優子でいっぱいだ。だが優子にはある秘密があった。
 著者のロバート・ハリスはFMラジオでおなじみのナビゲーターだ。多くの旅エッセイなどの著作はあるが、本書は初の長編小説になる。
 『JJ』は彼の経歴を色濃く映した自伝的な小説だと思われる。JJの父親の戦争体験など、見聞きした者でなければ書けないことだ。
 東京オリンピックが開かれた年の横浜、それも会社経営者やレストランオーナー、大使館員やアメリカの将校を親に持つブルジョアが集う生活は、まるで昔のアメリカのホームドラマのようだ。だが近くには黄金町のような物騒な場所もあり、JJたちの生活にもかかわってくる。
 石原裕次郎や小林旭の日活映画が大人気だったが、あれは荒唐無稽の物語だと思っていた。実際、横浜にあの世界が存在していたことに驚く。
 少年だったJJはこの年、大人への階段を一歩上った。本書は壮大な物語のプロローグだ。ここからどんな物語が始まるのだろう。彼の旅は始まったばかりだ。

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