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Bookworm (82)

ミシェル・マクナマラ 村井理子・訳『黄金州の殺人鬼 凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』

評者:東えりか(書評家)

2019年11月16日
エリア: 北米 アジア

小説よりも“複雑怪奇”なり
連続殺人鬼を追い詰めた女性作家

Michelle McNamara 1970年、米カリフォルニア州生まれ。ノンフィクション作家。夫はコメディアンのパットン・オズワルド。2016年、自宅で就寝中、46歳の若さで死去。

 1976年6月から86年5月まで、カリフォルニア州の各地で50人以上をレイプし、少なくとも13人を殺害、100件以上の強盗を行ったシリアルキラーがいた。犯行現場があまりに広範であったため、その地区ごとに「EAR(イーストエリアの強姦魔)」「バイセイリア・ランサッカー」「オリジナル・ナイトストーカー」などの別称で呼ばれて恐れられた。
 2001年、現場に残された体液のDNA検査によって「EAR」と「オリジナル・ナイトストーカー」は同一人物だと確定。だがその後、犯人の行方は杳として知れなかった。
 著者のミシェル・マクナマラは未解決のこの事件に興味を持ち、10年以上取材を続け執筆を開始した。各地の捜査員と懇意になり、現場を訪れ、犯人が奪った金品の行方を追った。「黄金州の殺人鬼(ゴールデン・ステート・キラー)」と名付けたのも彼女だ。まさに執念の1冊である。
 犯人は周到でかつ大胆だった。長い時間をかけて獲物を狙い定めた。夫婦やカップルの就寝中を襲い、女性に男性を紐で拘束させたのち彼女を別室で強姦した。子供には手を出さず、時に犯行後に涙を流した。その場にある鈍器で撲殺し、痕跡を隠そうとはしなかった。何度か捕らえるチャンスをすり抜け逃げおおせた。
 しかしどんなに恐ろしい犯罪でも人は忘れる。ミシェルがこの事件をブログや雑誌に発表しはじめるまで、ほとんど忘れられていた。
 だが彼女は違った。俳優の夫が出演する映画のパーティでも、子供を寝かした直後でも、新しいアイデアがでればすぐパソコンに向かった。
 第1章はそれぞれの事件の詳細である。事件現場の再現は息を飲むほどの迫力で迫ってくる。
 第2章はミシェルが見聞きした調査の積み重ねだ。調査協力者とともに犯人のプロファイルを行っていく。
 残念なことにミシェルは本書を書きあげることなく2016年、就寝中に心臓疾患で急死した。
 第3章は残された膨大な資料を精査した、夫と調査協力者たちによって書き上げられ、彼女の死後、1年8カ月経って本書は上梓された。しかしその時でも、犯人は捕まっていなかったのだ。
 犯人逮捕の報は、本書を宣伝するためのトークショウが終わった直後だったという。30年以上逃げ続けた男は元警察官であった。
 犯人逮捕の決め手はDNA検査の進歩であったが、ミシェルが追い詰めた犯人像は、ほかの作家が検証してくれるだろう。読み比べができる日が待ち遠しい。

カテゴリ: 社会 カルチャー
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