風の向こう側
風の向こう側 (88)

アマ歴戦18歳双子姉妹の「両親と社会への恩返し」

執筆者:舩越園子 2021年2月12日
タグ: 日本
エリア: アジア
ともに競い合い、まずはプロテスト合格を目指す岩井姉妹(左が姉・明愛、右が妹・千怜。父・雄士氏提供)
 

 日本のゴルフ界で大きな注目を集めている18歳の双子姉妹をご存じだろうか。

 岩井明愛(あきえ=姉)と千怜(ちさと=妹)は現在、埼玉栄高校の3年生。すでに数々のジュニア、アマチュアタイトルを獲得し、目覚ましい活躍を遂げている。

 本来なら2人は昨秋に「日本女子プロゴルフ協会」(JLPGA)のプロテストを受けていたはずだった。しかし、そのプロテストはコロナ禍によって2021年3月以降へ延期され、姉妹は思い描いていた計画を修正する必要に迫られた。

 そして2人が見出したのは、今春からプロテスト挑戦と大学進学を同時進行するという新たな道だった。

 そんな2人に会ってみたくなり、彼女たちが4月からスポーツ特待生として入学する武蔵丘短期大学(埼玉県比企郡)で取材させてもらう段取りをした。「せっかくなら、ご両親の話も」とリクエストした。

 すると当日、岩井一家は「春からの通学の練習を兼ねて路線バスを乗り継いでやってくるそうだ」と大学側から聞かされた。

 その瞬間、岩井家に対する私の興味は一気に倍増した。

ごく普通の家庭

 幼少時代からゴルフクラブを振ってきた岩井姉妹の戦績は数知れず、ほんの一例を挙げれば、姉・明愛は「関東高校ゴルフ選手権」で2連覇を達成し、妹・千怜は「埼玉県女子アマ選手権」3連覇、「ゴルフダイジェスト・ジャパン・ジュニアカップ」3連覇を果たした。

 アマチュアとしてプロの大会に挑んだ経験もすでに6~7回ずつある。昨年は初めて2人揃っての「日本女子オープン」出場を実現し、姉・明愛は14位タイでローアマ獲得、妹・千怜は40位タイと健闘。その直後、今度は千怜が「スタンレーレディス」に出場し、52位タイでローアマに輝いた。

 姉妹の2つ年下の弟・光太も埼玉栄高校のゴルフ部に籍を置き、昨年の「日本オープン」に出場し、話題になった。

 ここまで聞いたら、父親あるいは両親が「よほどのゴルフ上級者なのだろう」「経済的に余裕がある家庭なのだろう」「ゴルフ英才教育、スパルタ教育を行ってきたのだろう」と想像したくなる。

インタビューに答える姉妹(武蔵丘短期大学提供)

 しかし、実際に会ってみたら、岩井家はごく普通の家庭だった。父・雄士は公務員、母・恵美子は看護師。そして姉妹は「プロゴルファーになったら、あんまりお金がないのに私たちにゴルフをさせてくれている両親や祖父母に恩返しがしたい」。

 そんな優しい心を抱きながらプロゴルファーを目指すトップアマの姉妹をどうやって育んできたのかを知りたくなった。

「人間オリエンテッド」

 聞けば、姉妹のゴルフ道の始まりは、ある意味、偶然の重なり合いだったようだ。

「新婚旅行で(夫に)ゴルフ練習場に連れていかれたけど、『何が面白いの? 2度と行かない』って感じでした」

 と振り返った母・恵美子は、今でも「ゴルフはやりません」。

 姉妹が5歳ぐらいのとき、家族旅行先で再びゴルフ練習場へ行き、姉妹はそのとき初めてゴルフクラブを振った。

 姉妹が7歳の夏、母・恵美子は仕事と家事と3人の子育てで多忙をきわめて少々不機嫌だったため、父・雄士は「半ば嫌々、明愛と千怜を練習場に連れていった」ところ、姉妹は大人用のクラブを1時間も振り続けた。

 後日、父親が練習場に行こうとすると「アキちゃんも行く!」「チーちゃんも!」とせがまれた。

「練習中、目が離せなくなるから連れていきたくないというのが本音だったが、仕方なく連れていった」

 その年の12月、姉・明愛は「サンタさんにゴルフクラブをお願いしたら、翌朝、私にはブルー、妹にはピンクのゴルフバッグが置かれていました」。それは、姉・明愛にとっては「今までで一番嬉しかったこと」だが、舞台裏はなかなか大変だったようだ。

「ジュニア用のゴルフクラブが売られていることすら知らなかった私は、きっと高額で無理だろうと思いながら調べてみたら1万円ちょっとであったので、それを買って娘たちの枕元に置きました」

 年明けからは「親子でラウンドしたいという欲が出て、ルールやマナーを教え始めました」。やがて練習場のティーチングプロから「筋がいいね。競技に出てみたら?」と勧められ、レッスンを受け始め、ジュニア大会にも出場。ぐんぐん頭角を現していった。

「毛呂山町(埼玉県入間郡)の『リンクスゴルフクラブ』という練習場の永井哲二プロは、明愛と千怜が全国大会に出始めたころ、『彼女たちは今後どこまでも上手くなる。どこまで行くか僕にはわからないぐらいの原石だから、そんな2人を見る(教える)のがちょっと怖くなった』と、ぽろっと言った。それを聞いたとき、信用できる人だ、この人に預けようと思いました。それから10年以上の付き合いです。2人に大きな影響を与えた人だと思っています」

 父・雄士の指導者に対する判断基準は、知名度や技術論ではなく、人間性と信頼だった。そんな「人間オリエンテッド」な姿勢は、姉妹にもそのまま素直に伝わっているように感じられる。

父は月1ゴルフも我慢

「試合に出るときは、とにかく楽しんでこいと言って送り出します」

 と父・雄士は言う。とは言え、双子の姉妹が同じ試合に同時に出れば、やっぱり対抗心は芽生える。そんなときは「成績が悪かった方に声をかけます」。

 ゴルフを強いることは決してしなかった。中学校では姉妹とも陸上部に入り、姉・明愛はサッカーにも精を出した。

「朝練で走って、それから授業に出て、放課後も部活で走って、家に帰ってからゴルフの練習場に行ってトレーニングしてから球を打った。大変だったけど楽しかった」(妹・千怜)

 弟・光太もゴルフを始めてからは、ときどき母・恵美子も一緒にゴルフ場へ行き、乗用カートの運転役を引き受けるようになった。

「娘たちが小4、光太が小2ぐらいからの月に1度の家族5人のイベント。これがみんなの楽しみになって、そうこうしているうちに明愛と千怜の成績が出始めて」

 と、父・雄士は岩井家のゴルフ道の始まりを、あらためて、しみじみ振り返った。

 楽しむことが最優先の「家族オリエンテッド」な岩井家のスタイルが、姉妹と弟を健やかに成長させていることが伝わってきた。

 とは言え、子どもたち3人のゴルフの費用を賄うことは想像以上に大変なことだったそうだ。クラブやボール、ウェアやシューズ、それに練習場やレッスン、ラウンド、試合出場のための遠征費用等々が、最初は姉妹2人分、後には弟を含めた3人分になり、

「そのぶん私は月1ゴルフも我慢するようになりました」(父・雄士)

 昨年、姉妹が「全米女子オープン」の日本予選に挑んだときも、父・雄士は渡米して出場する費用のことが頭に浮かび、

「予選を突破したらどうしようって、ドキドキしてました」

 両親が家計をやりくりしてきた姿を見て、姉妹はその苦労を感じ取っていたのだろう。

「そういえば、あの子たちから『おこづかい、ちょうだい』と言われたことは一度もない」

 なるほど。姉妹に、

「どんなプロゴルファーになりたい? 何がしたい?」

 と尋ねたときも、姉・明愛は、

「朝日がキラキラ映る海が部屋の中から見えるような大きな家を建てて、家族みんなで住みたい」

 と答えた。妹・千怜は、

「いっぱい稼いで困っている人とかに寄付がしたいです。そして両親や祖父母に恩返しがしたいです」

 是非とも、そういうプロゴルファーになってほしいと願わずにはいられなくなった。

プロテスト最終試験は6月

 その目標に近づくために、姉妹は昨年11月にプロテストを受けるはずだったことは冒頭で触れた。しかし、プロテストの延期が昨夏に発表されたとき、両親は、

「不安になりました。去年11月に合否が出ていれば、もし落ちたら大学進学とか研修生とか、そこから次の道を考えることができました。でもそれが分からないまま高校卒業となるわけだから、親としては彼女たちの最悪の事態を考え、まず進路を確保しておかなければと思いました」

 そして姉妹は「来年のプロテストに調子を合わせよう」とすぐさま前向きに受け止め、進学も同時進行する道を選んだ。

 姉・明愛は「プロゴルファー人生のあとのセカンドキャリアのためにも、身体のことや栄養のことを勉強しておきたい」と考え、妹・千怜は「アスリートとしてやっていくためには自分の身体を自分で管理するのは基本だと思うので、それができるように健康や栄養、コンディショニングなどを学びたい」。

昨年のプロテストが延期になり、今年チャレンジ(父・雄士氏提供)

 武蔵丘短期大学を選んだ理由は「4年間の大学生活だと長すぎて気持ちが薄れていくのが怖い」「学びたいと思っていることが学べる」「自宅から近い」「スポーツ特待生としての学費免除が経済的に助かる」。

 同大学にはゴルフ部があり、キャンパス内にはゴルフ練習場もあり、さらに大学と連携している近隣の「鳩山カントリークラブ」や「カゴハラゴルフ」(練習場)を利用できるため、「練習環境がいいなと思って決めました」と姉妹は笑顔で答えた。

 プロテストは3月に1次試験、5月に2次試験、6月に最終試験が行われる。姉・明愛は日本女子オープンのローアマ獲得により、1次と2次が免除されるため、6月の最終試験からの受験となり、妹・千怜は3月の1次試験からの長丁場が待ち受けている。

 その合間にも、2人はさまざまなアマチュア大会、チャンスがあればプロの大会にも挑む心づもりで、すでにスケジュールを組んでいる。さらにその合間に大学で勉強もする日々は、きわめてハードになるだろう。

 だが、これまでも陸上とサッカーとゴルフと学校の授業をすべてこなしてきたのだから、時間のやりくりはお手のものであろう。

 時間はなくても、楽しむ気持ちと感謝の心があれば、そして信頼できる人々と家族がいれば、きっと乗り越えられることをすでに姉妹は知っている。

 そう教えてきたご両親の謙虚で真摯な姿勢に拍手を送りたい。そして、プロを目指し、大学で学ぼうと意欲を燃やし、プロになったら家族や社会に恩返しがしたいと願う岩井姉妹に、私は心からエールを送りたい。

カテゴリ: スポーツ
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執筆者プロフィール
舩越園子 ゴルフジャーナリスト、2019年4月より武蔵丘短期大学客員教授。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。最新刊に『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)がある。
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