裂けた明日 (25)

連載小説:裂けた明日 第25回

執筆者:佐々木譲 2021年10月16日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

封鎖線を越えるため、信也と真智母娘は身元を偽わりバスに乗ることに。今度こそ成功するのか、緊張が高まるが――。

[承前]

 バスは、八時五分前にやってきた。いくつかの飯場に向かうバスが、ほぼ同時にやってきたのだ。十五分ほど前には、横浜や浦賀方面行きのプレートをつけたバスも、相次いで六、七台出発していった。信也はなんとなく、寄場に労働者を乗せる車がやってくるのは、早朝だと思い込んでいた。でも、自分たちがいちおう雇われたかたちになっている事業所では、こうして夜に労働者を共同統治地域の外で集めて、地域内に運ぼうとしている。どんな事情があるのだろう。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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