被告の名は「金正恩」(2):金正恩を訴えた理由と「北朝鮮を変える唯一の方法」

帰還脱北者が語る北朝鮮

執筆者:川崎栄子
2021年12月24日
エリア: アジア
北朝鮮の最高指導者が日本の法廷で裁かれる ©フォーサイト編集部
10年前の12月17日、北朝鮮の金正日総書記が死去。国際社会では一時「これで北朝鮮も変わるかもしれない」との希望も芽生えたが、まもなく三男の金正恩が後継者として君臨、希望は潰えた。どうすれば北朝鮮は変わるのか。1960年に帰還事業で北朝鮮に「帰国」したものの2003年に脱北、日本に再び「帰国」して東京で金正恩を相手に裁判を起こした川崎栄子さん(79)が、体制変革への“唯一の希望”を語った。

 

金日成の死と脱北への決意

 北朝鮮で理工系の大学を卒業して就職した私は、職場で出会った現地の男性と結婚しました。彼は「帰国者」ではなかったので、私のような低い「成分」(出身身分によるランク)の人間と結婚するのは奇特なことでした。姑は私と結婚したことがずっと気に入らず、ずいぶんいじめられました。それでも私たちは、生まれてきた5人の子どもを北朝鮮でどうにか育て上げました。2003年に脱北するまでの43年間、私は自分の身を護るために「見ざる聞かざる言わざる」を貫き通しました。どんなに理不尽なことを見聞きしても、誰にも、何も不満を漏らしませんでした。私は京都で朝鮮高校に通っていた頃から、独裁と個人崇拝を嫌って『金日成将軍の歌』を歌わないような人間でしたから、民主主義とは真逆の異常な独裁体制の下で沈黙を続けることは、何より辛いことでした。でも、あの国で生き延びるためにはそうすることしかできなかったのです。

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カテゴリ: 政治 社会
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