馬雲(ジャック・マー)氏が「東京滞在」で描く「第2のアリババ創業」

執筆者:後藤康浩 2022年12月13日
タグ: 中国 日本
エリア: アジア 中南米
[2021年10月20日、スペイン・マヨルカ島で撮影されたジャック・マー氏](C)AFP=時事
馬氏が虎の尾を踏んだ2020年秋以降、世論形成に影響のある巨大民間企業に対する圧力は一気に増した。実質国有化も含め「混改新公司」はさらに強化されている。政治的メッセージとは結び付きにくい東京は、深刻な岐路に立つ中国巨大民間企業の新たな足場となるのか? 馬氏の「東京滞在」の持つ意味は重大だ。

 中国最大のEコマース企業、アリババの創業者である馬雲氏が東京に長期滞在している。馬氏は2020年10月に上海のフォーラムで中国の銀行業界と金融行政を手厳しく批判したことで、習近平政権から事実上の“蟄居”に追い込まれた。それ以前にアリババの経営の第一線から退いてはいたが、その後、動静も時折伝えられる程度になっていた。

 3期目に入った習総書記は民間経済への統制を着々と強化しつつある。今世紀に入って驚異的な発展を遂げた中国の民間企業とICTビジネスの象徴ともいえる馬氏の不在は、中国の変質を如実に物語る。

 一方、馬氏が米国でも欧州でもなく、東京を拠点としていることには馬氏の新たな戦略もありそうだ。それは中国を離れ、グローバル企業としての飛躍を目指す「第2のアリババ創業」かもしれない。馬氏は今、東京で何を思い描いているのだろうか。

東京・麻布台の高級肉料理店に現れる

 数カ月前から東京・麻布台の高級肉料理店に馬氏が数回、食事に立ち寄ったという話は耳にしていたが、家族とともに既に半年も東京に暮らしているという情報は驚きだった。20年10月以降、撮影地不明のビデオメッセージや香港のゴルフ場、オランダの農業大学、イスラエルのIT企業に現れるなど時折、動静は伝えられていたが、旅を続けている印象を持っていたからだ。居を定めるにしても、アリババが上場しているニューヨークの方が英語に堪能な馬氏には暮らしやすいはずだ。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
後藤康浩(ごとうやすひろ) 亜細亜大学都市創造学部教授、元日本経済新聞論説委員・編集委員。 1958年福岡県生まれ。早稲田大政経学部卒、豪ボンド大MBA修了。1984年日経新聞入社。社会部、国際部、バーレーン支局、欧州総局(ロンドン)駐在、東京本社産業部、中国総局(北京)駐在などを経て、産業部編集委員、論説委員、アジア部長、編集委員などを歴任。2016年4月から現職。産業政策、モノづくり、アジア経済、資源エネルギー問題などを専門とし、大学で教鞭を執る傍ら、テレビ東京系列『未来世紀ジパング』などにも出演していた。現在も幅広いメディアで講演や執筆活動を行うほか、企業の社外取締役なども務めている。著書に『アジア都市の成長戦略』(2018年度「岡倉天心記念賞」受賞/慶應義塾大学出版会)、『ネクスト・アジア』(日本経済新聞出版)、『資源・食糧・エネルギーが変える世界』(日本経済新聞出版)、『アジア力』(日本経済新聞出版)、『強い工場』(日経BP)、『勝つ工場』(日本経済新聞出版)などがある。
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