バイデン政権に待つ「次男」「アフガン」「反中とウクライナ疲れ」という難題

執筆者:ブルース・ストークス(Bruce Stokes) 2022年12月15日
エリア: 北米
次男のビジネスに大統領の関与は認められないと報じられるが……[感謝祭の休暇をハンター氏夫妻と過ごしたバイデン大統領=2022年11月25日](C)AFP=時事
トランプ支持の退潮が見えたアメリカ中間選挙だが、僅差の議会運営はバイデン政権に新たな難題を突きつける。2016 年の大統領選を狙ったヒラリー・クリントンが共和党の公聴会戦術に苦しめられたように、「次の 2 年」の民主党も大統領次男ハンター・バイデン氏のスキャンダルなどで手足を縛られる可能性がある。

 2022年のアメリカ中間選挙が歴史に新たな1ページを刻んだ。選挙前の世論調査やワシントンの“常識”に反し、与党・民主党が接戦の末に議会上院の多数派を維持することになった。共和党は議会下院の過半数を奪還したものの、その差は限定的である。そして、このわずかな差により、ドナルド・トランプ前大統領と関係の深い共和党の小さな議員グループが不相応なほどの影響力を及ぼしていくだろう。法案成立を目指す際、彼らの1票が票決を左右することも往々にしてみられそうだからだ。

 この選挙の結果は世界、そして日本など同盟国に対するアメリカの対外関与という点で、果たしてどのような意味を持つのだろうか?

政府機能ではイタリアと同レベル?

 今回の選挙で最も重要なポイントは、選挙後の出口調査でジョー・バイデン大統領を支持する有権者が44%だけだったにせよ、勝者はバイデン大統領だったということだ。中間選挙では歴史的に、大統領支持率が40%台以下になると、与党は平均して下院で37議席を失う。ところが今回、民主党が失ったのは7議席にとどまった。

 仮に民主党がバイデン氏の不人気に引きずられていたら、大統領の権威はさらに弱体化し、2024年の再選出馬を断念するよう求める声が上がっていただろう。そして何より、選挙後にはエジプトで開催されたCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)27やインドネシア・バリでのG20首脳会合、そこでは中国の習近平国家主席との対面会談も行ったが、そうした国際舞台の場に、国内の支持がないことで〈世界のリーダーにはなれない人物〉として出席するはめになっていただろう。アメリカの外交的、戦略的な影響力は揺らいでいたと言っていい。だが実際には、アメリカの影響力は増した。

 今回の選挙の2人目の勝者は〈アメリカの民主主義〉だ。トランプ氏が支持した候補は勝機があった知事選や上院選の29で敗北した。うち28が、2020年大統領選「否定派」だ(訳者註:原文執筆時点=11月28日)。さらに、今回の中間選挙の投票率は速報値で46.8%に達した。もちろん投票率が50%に届かないのは誇れることでないが、過去50年の中間選挙でこの数字を上回ったのは一度だけである。

 しかしながら、今回の選挙で、この国が民主主義国家としてますます不安定化していることが浮き彫りになった。2000~2022年に行われた過去12回の選挙で、連邦議会の上院、下院の多数派、あるいは政権与党が交代したケースは11回に上り、過去にないペースだ。しかもそうした政権移譲が〈穏健な民主党〉と〈穏健な共和党〉の間ではなく、ますます二極化する政党間で起こるのだ。民主主義において、定期的に政権が入れ替わるのは健全なことである。しかし、回転ドア式に政権交代が起きれば、唐突な政策転換を招き、諸外国にとって“信頼できないパートナー”になってしまうおそれがある。

 またこの結果は、党派対立で連邦議会が行き詰まりに陥る前兆とも言える。1987~88年、連邦議会は225の実体法(訳者註:substantive laws=合衆国法典に影響を与え、予算措置や政策変更なども伴うような主要な法律)を制定した。2021~22年になると、成立したのは129にとどまった。

 次の2年も、予算承認と国防費は必要なため通過すると思われる。しかし、その他の実質的な法案はほとんど何も進まないだろう。共和党が支配する下院で何かを可決しても、民主党支配の上院で通る見込みはほとんどなく、その逆もまた然りである。英誌エコノミストの調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」が、政府機能においてアメリカはイタリアと同レベルだと評価したのも不思議ではない。

 やがて起こる議会の機能不全により、バイデン大統領はさらに大統領令に頼ることになるだろう。ジョージ・W・ブッシュ元大統領は、2期8年の間で平均して年に36本の大統領令を出した。バラク・オバマ元大統領は35本、トランプ前大統領は55本だった。バイデン大統領はこれまでのところ年に57本のペースだが、議会が膠着状態に陥ればさらに多くを発令せざるを得ないかもしれない。

 しかし、大統領令による政策は撤回される場合もある。実際、火力発電所からの二酸化炭素排出量を初めて規制したオバマ時代のクリーン・パワー・プランは、次のトランプ政権で取り消された。同盟国が当てにするであろうアメリカの政策の予見可能性を損なってしまうのだ。

マッカーシー次期下院議長の唱える中国問題「特別委員会」設置

 今回の選挙結果は、対中政策にも重大な影響をもたらすかもしれない。

 一つには、この問題が極端な政治的分断がない数少ないテーマだからだ。支持政党を問わず、中国に対するネガティブな世論はすでに過去最高水準に達している。バイデン大統領は、仮に中国からの攻撃があれば、アメリカは台湾を守ると繰り返し公言している。ただし、ジャーマン・マーシャル財団が2022年に行った調査では、台湾防衛のための武器供与や米軍派遣を支持するアメリカ国民はわずか7〜8%しかいない。

 また最近、バイデン政権は先端半導体の製品、製造装置の対中輸出や、アメリカの技術者が中国の半導体生産に関わることへの規制を強化したが、政府がこれまで課したなかで最も厳しい措置の一つとなった。この規制は、すでに韓国の懸念を引き起こし、日本の一部では報復措置への不安の声も上がっている。

 次期下院議長に就く見込みの共和党ケビン・マッカーシー院内総務は、前任で民主党のナンシー・ペロシ下院議長が2022年8月に台湾を訪問し、中国の反発を呼ぶ結果となった例と同様、台湾訪問に意欲を示している。彼は以前から、中国に関する特別委員会の創設を唱えている。そこでは、中国への投資あるいは中国からの対米投資をめぐる監督強化や、技術の輸出管理の厳格化、中国による重要鉱物独占の問題、台湾に対する中国の脅威などについて公聴会を行う可能性がある。

 このような公聴会を開けば、たとえ法案につながらなかったとしても米中関係の緊張はさらに高まり、11月の米中首脳会談にみられるような緊張緩和を探るバイデン政権の取り組みを台無しにしてしまうおそれがある。下院のそうした特別委員会が、超党派でより効果的な対中戦略を新たに策定する場となるのか、2024年大統領選に向けてバイデン政権を批判する場となるのかによって、結末は大きく左右されるだろう。

共和党が狙う「大統領次男」のスキャンダル

 加えて、下院監視・政府改革委員会の共和党トップで次期委員長と目されるジェームズ・コーマー下院議員は、バイデン大統領の次男ハンター・バイデン氏と中国のエネルギー会社「中国華信能源(CEFCチャイナ・エナジー)」との取り引きについて独自の調査に乗り出した。ハンター氏は、税金問題をめぐりデラウェア州の連邦地検の捜査対象にもなっている。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
ブルース・ストークス(Bruce Stokes)(ぶるーすすとーくす) ジャーマン・マーシャル財団客員シニア・フェロー/英・王立国際問題研究所アソシエイト・フェロー。「ナショナル・ジャーナル」誌特派員、外交問題評議会上級フェローなどを歴任、1997年にはクリントン政権「Commission on United States-Pacific Trade and Investment Policy」のメンバーとして最終報告「Building American Prosperity in the 21st Century」を執筆している。2012年から2019年にかけてはピュー・リサーチ・センターで国際経済世論調査部ディレクターを務め、多岐にわたる項目について日本人の意識調査を実施した。
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