シリア「アラブ連盟復帰」も現実化させた「危うい中東新秩序」

執筆者:岐部秀光 2023年5月15日
エリア: 中東
シリアのアラブ連盟復帰は地域情勢の安定をサウジがアピールする大きな材料に[サウジのファルハーン外相を迎えるシリアのアサド大統領(右)=2023年4月18日、ダマスカス](C)AFP=時事 / Syrian Presidency Facebook page
アラブ諸国のシリアとの対立路線転換が、ついにシリアのアラブ連盟復帰という大きな節目を迎えている。中国の仲介外交が演出したサウジ−イランの接近と、それが象徴する中東秩序の再構成を、アサド政権はしたたかに生かしている格好だ。だが、シリアの「安定」は依然として危機の強引な封じ込めに過ぎない。

 3月に中国の習近平国家主席によるトップ仲介外交で合意したサウジアラビアとイランの外交関係正常化。これを機に中東からの撤退を急ぐ米国に代わって、地域での影響力確保を狙う中国がプレイヤーとなった新しい中東秩序の建設がはじまっている。この過程に思わぬかたちで「勝者」に浮上しつつあるのが、長く国際社会で孤立してきたシリアのバッシャール・アル・アサド大統領である。戦争と制裁を生き延びた父ハフェズ・アル・アサドから受け継いだ冷酷な権謀術数は、中東の将来に火種をひろげるリスクをはらむ。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
岐部秀光(きべひでみつ) 早稲田大学第一文学部卒。カイロ・アメリカン大学でアラビア語研修。早大大学院ファイナンス研究科修士。日本経済新聞社で金融部を振り出しに仙台支局、バーレーン支局、欧州総局(ロンドン)、カイロ支局、ドバイ支局などで勤務。イラク戦争や「アラブの春」を取材した。著書に『イギリス矛盾の力 進化し続ける政治経済システム』、共著『中東崩壊』(いずれも日経出版)。現職は編集委員兼論説委員。上智大学非常勤講師。
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