今週もお疲れ様でした。
衝撃的なプリゴジン氏搭乗機の墜落、そして日本時間の今夜に控えるパウエル米FRB議長の「ジャクソンホール会議」での講演など、注目のニュースがまさに目白押しの週末になりそうです。もちろんこれらへの目配りは欠かせませんが、今回の本欄では24日に閉幕したBRICS首脳会議に特に焦点を当ててみました。
BRICSで西側諸国に対抗したい中ロ、非同盟外交政策の基盤にしたいインド、ブラジル。主導5カ国には思惑の違いが潜在し、それは加盟国拡大をめぐる議論に反映されてきました。新たに加盟が決まったのはイラン、サウジアラビア、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国。この選出の背景にある力学を考察します。
フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。
India's Modi unlikely to travel to South Africa for BRICS summit, sources say【Rupam Jain、Krishn Kaushik/Reuters/8月2日付】
India PM Modi to travel to South Africa for BRICS summit【Reuters/8月3日付】
ロシアでは“ワグネルの乱”を起こしたエフゲニー・プリゴジンが死亡したと伝えられ、インドでは月面無人探査機「チャンドラヤーン3号」が世界で初めて月の南極への軟着陸に成功。中国は、中央アメリカ議会(中米統合機構の立法府で、中米6カ国が加盟)において台湾に代わるオブザーバー国に選出された。
こうしたタイミングで開かれたのが今年のBRICS首脳会議だ。開催地である南アフリカのヨハネスブルクにはロシアのウラジーミル・プーチン大統領は現れず、オンラインでの参加となったが、実は対面で出席したインドのナレンドラ・モディ首相についても8月2日付でロイター通信が「インド首相、BRICSサミット出席はオンラインの公算=関係筋」との記事を配信していた(筆者はニューデリー上級特派員のルパム・ジャインと同特派員のクリシュン・カウシク。日本語版あり。以下、ロイター記事の訳文は日本語版による)。
この報道はロイター自身による翌8月3日付の「インド首相、BRICSサミットに対面で出席へ」で打ち消されるのだが、方針転換の背景について記事は次のように述べている。
「インド政府によると、モディ氏は3日に南アの[シリル・]ラマポーザ大統領と電話で対話。ラマポーザ氏は9月初めにインドで行われる20カ国・地域(G20)サミットへの出席に関心を示したという」
もっとも、ラマポーザ大統領をG20サミットに招くことがモディ首相のBRICSサミット出席の最大の動機だったかどうかは不明だ。インドは7月にニューデリーで開く予定だったSCO首脳会議をオンライン開催に切り替えており、国際会合のホスト国として対面参加の首脳を増やしたいといった“面子”へのこだわりはないのかもしれないからだ。
むしろ、SCOはもちろんのこと、BRICSの枠組みでも主導権を握ろうとする中国を牽制することがインドの大きな狙い――そう考えた方が、SCOサミットのオンライン化やBRICSサミット出席でのブラフ、さらにはG20サミット出席者の勧誘といった一連の行動を理解しやすい。
実際、ロイターの1本目の記事には次のようなくだりがある。
「中国とロシアは今回の首脳会議でBRICS拡大を議論したい意向だが、インドは拡大案に難色を示している」
「ある[インド]政府筋は、インドは米国など西側勢力に歩み寄っており、BRICSやSCO[上海協力機構]など中国主導のグループに所属することを巡り、政府内で不満が高まっていると指摘した」
[By Invitation]BRICS expansion would be a sign of China's growing influence, says Oliver Stuenkel【Oliver Stuenkel/Economist/8月18日付】
今回のBRICSサミットについては、ブラジルのジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV)大学のオリバー・シュトゥエンケル教授も、英エコノミスト誌への寄稿(8月18日付)で次のような見方を示していた。
「世界各国から22カ国以上がBRICSグループへの加盟を正式に要請し、同じくらい数の国々が将来的な加盟に関心を示していることは驚くには当たらない。しかし、ヨハネスブルグで開催されるサミットを前に、BRICSが明確な道筋に合意できずにいるのは、まさにこの拡大というテーマについてだ」
「中国が何年も前から新加盟国に賛成しているのに対し、インドとブラジルは以前から懐疑的で、グループ内での影響力が弱まることを恐れている。さらに重要なのは、BRICSが中国主導のブロックになってしまうことを[インドとブラジルが]懸念していることだ。実際、アルジェリア、アルゼンチン、エジプト、イランといった国々がBRICS加盟を、とりわけ中国の投資や財政支援を受けやすくするための手段だと捉えているという、ブラジルやインドの当局者の推測は、おそらく正しいだろう」
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