【前回まで】潜水艦を返還させた都倉の行動について、外務省は一切関知しない、日中関係は変わらない――特命全権大使の及川はそう告げた。その時、官房長官が談話を発表する。
Episode5 四面楚歌
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官房長官、「都倉総務会長の行為、遺憾」
“三好官房長官は、台湾軍潜水艦の返還問題について、「都倉響子・総務会長の行為は、独断専行であり、政府としてまったく与り知らないものである。日本国の国会議員として、反逆行為に等しい。保守党による厳しい処分を期待している」と遺憾の意を表明した”
予想通りの談話だった。だが、都倉の決断によって、一触即発だった日米中台の衝突が回避された点について、まったく言及していないのに、都倉は失望した。
自国が戦争に巻き込まれるかも知れない危機より、与党内の跳ねっ返りの暴走が我慢できない――。日本政府は、こうやって国際情勢の核心に目を背け続けて、メンツばかりにこだわって破滅していくのだろうか……。
「国内外のメディアが、先生の会談を受けた記事を報じ始めました」
スマートフォンでニュースをチェックしていた野添が言った。
「国内メディアは、事実関係を報道している社が多いですね。そこに、官房長官や外相、幹事長、野党の党首の談話が続々と入ってきています。
与党は遺憾、野党は、賛否両論という感じです。人民日報は、絶賛。そして、欧米メディアは、概ね驚きを込めながら伝えています」
残念なのは、日本の総理のコメントがないことだ。
右顧左眄がますます酷くなった「フラフラ殿下」は、またしても判断しかねているのだろうか。
先程から、都倉のスマホは、着信で振動している。その度に、発信者を確認して無視してきたが、遂に出なければならない人物の名が、ディスプレイに浮かんだ。
保守党幹事長、保土谷辰平[ほどがやたっぺい]だ。……
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