オペレーションF[フォース] (45)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第45回

執筆者:真山仁 2023年12月30日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】潜水艦を返還させた都倉の行動について、外務省は一切関知しない、日中関係は変わらない――特命全権大使の及川はそう告げた。その時、官房長官が談話を発表する。

 

Episode5 四面楚歌

 

10

 官房長官、「都倉総務会長の行為、遺憾」

 “三好官房長官は、台湾軍潜水艦の返還問題について、「都倉響子・総務会長の行為は、独断専行であり、政府としてまったく与り知らないものである。日本国の国会議員として、反逆行為に等しい。保守党による厳しい処分を期待している」と遺憾の意を表明した”

 予想通りの談話だった。だが、都倉の決断によって、一触即発だった日米中台の衝突が回避された点について、まったく言及していないのに、都倉は失望した。

 自国が戦争に巻き込まれるかも知れない危機より、与党内の跳ねっ返りの暴走が我慢できない――。日本政府は、こうやって国際情勢の核心に目を背け続けて、メンツばかりにこだわって破滅していくのだろうか……。

「国内外のメディアが、先生の会談を受けた記事を報じ始めました」

 スマートフォンでニュースをチェックしていた野添が言った。

「国内メディアは、事実関係を報道している社が多いですね。そこに、官房長官や外相、幹事長、野党の党首の談話が続々と入ってきています。

 与党は遺憾、野党は、賛否両論という感じです。人民日報は、絶賛。そして、欧米メディアは、概ね驚きを込めながら伝えています」

 残念なのは、日本の総理のコメントがないことだ。

 右顧左眄がますます酷くなった「フラフラ殿下」は、またしても判断しかねているのだろうか。

 先程から、都倉のスマホは、着信で振動している。その度に、発信者を確認して無視してきたが、遂に出なければならない人物の名が、ディスプレイに浮かんだ。

 保守党幹事長、保土谷辰平[ほどがやたっぺい]だ。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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