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インドネシアの首都移転計画はジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)が2019年に発表したものだ。新都市の名称「ヌサンタラ」は「群島」という意味で、世界最大の島嶼国・インドネシアを象徴する名前といえる。インドネシアのほぼ真ん中にあるカリマンタン島東部の森林などを切り開いて新しい首都を建設する計画だが、計画されている約25万ヘクタールという面積は東京都の広さ(約21.9万ヘクタール)に匹敵する。環境に配慮した「グリーンシティー」を標榜し、IT技術を導入したスマートシティーを目指す。
この移転計画について、当初は懐疑的な声も多かった。ヌサンタラが位置するカリマンタン島の東部はいわゆる「僻地」であり、仕事の関係でもなければ訪れる人は限られる。タイやシンガポール、ベトナムといったASEAN(東南アジア諸国連合)主要国からも離れているため、「国内の経済循環の刺激にはなるかもしれないが、インバウンドなどの取り込みは難しい」(航空関係者)といった懸念も出ていた。
ジャワ島への一極集中と地盤沈下問題
それでもジョコウィ大統領が首都移転計画を決定したのには、いくつか理由がある。
まず一つは、ジャワ島一極集中への対策だ。ジャワ島は国土の約6%に過ぎないのに、全人口の半数以上の約1億5000万人が住むとされる。特にジャカルタを中心とした首都圏には約3000万人が住み、交通渋滞や大気汚染が深刻になっている。ジャカルタ以外にもスラバヤなどの主要都市が軒並みジャワ島に集中しており、インドネシアのGDP(国内総生産)の約6割はジャワ島による。約1万7000の島からなる国で、一つの島にこれほど政治経済の活動が集中している現状は確かに偏っていると言わざるを得ない。ジョコウィ大統領は国土の均衡ある発展を目指しており、インドネシアの真ん中に位置するカリマンタン島東部を首都移転先に選んだのはそうした背景がある。
次に、ジャカルタの地盤沈下問題も首都移転の理由の一つだ。ジャカルタの地盤は元々軟弱な上に、水道システムが整っておらず住民が地下水を汲み上げて利用しているため、沈下の一途を辿っている。地盤沈下の速度は1年に約20センチメートルで、市の北部ではそれがさらに深刻だという。このため、降雨時の浸水被害などへの対応が急務となっている。
さらに、地震対策という側面もある。ジャワ島は巨大地震を引き起こす可能性のある大きな断層帯の近くにあるため、潜在的な災害リスクが高いと言われてきた。一方、新首都のヌサンタラ付近は地盤が硬いとされ、移転先選定の大きな理由に挙げられる。
しかし首都移転の最大の理由は、ジョコウィ大統領の政治的遺産づくり、すなわち個人的な野心だと見る向きもある。首都移転はスカルノ初代大統領以来の懸案事項であり、ジョコウィ氏が実現できればインドネシアの歴史に深く名前を刻むのは間違いない。
新首都への移転はインドネシア独立100周年にあたる2045年に完了する計画だ。ジョコウィ氏は同年にインドネシアが先進国入りするという「黄金のインドネシア」ビジョンをぶち上げており、その象徴として新首都を位置付けたい考えだ。
今年2月に投開票が行われたインドネシア大統領選挙では、首都移転計画の是非が一つの争点となったが、ジョコウィ路線を継承すると明言したプラボウォ・スビアント国防相が勝利したため、移転は既定路線となった。
「ソフトバンクは自分の利益しか考えていない」
首都移転の総予算は少なくとも約466兆ルピア(約4.5兆円)。そのうち約2割は国家予算から、残りの8割は民間企業や国営企業、政府と民間企業の協力事業などから調達する計画だ。つまり、大部分は政府外からの投資に依存する構造になっている。
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