
「金利のある世界」。長年にわたって政策金利が0%以下だった日本に、ようやく金利のある日常が訪れている。
日本銀行は3月のマイナス金利解除に続き、7月に追加利上げを決定。現在の政策金利0.25%程度は2008年12月以来の水準だ。金利のある世界では、貸出金利や国債・社債の運用利回りが上昇するほか、銀行が日銀の当座預金に置いている「預け金」にも利子が付くため、銀行にとって極めてフェーバーだ。
物価と賃金の好循環を背景に、市場には日本の政策金利が2025年末までに1%に到達するとの見方もある。収益上昇への期待から、国内銀行の株価も昨年来、高止まって推移する。
しかし、金利のある世界に不穏な足音が忍び寄っている。日経平均株価は8月1日~5日にかけてと、9月4日に大幅安となったが、きっかけはいずれも米ISM製造業景気指数の悪化だ。7月の46.8に続き、8月の指数も47.2となり、好況・不況の分岐点となる50を5カ月連続で下回った。いずれも事前予想を下回っている点も見逃せない。
半導体などハイテク産業の「体温計」とも言われる同指数の悪化は、米国の景気後退を連想させる。株式市場が最も恐れる米国経済のハードランディングや、その先のグローバルリセッションへの警戒も高まるため、指数の悪化は世界の金融マーケットに大きな動揺を与えることになる。
現実味を帯びる「再びの利下げ局面」
「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」。8月7日、函館市で講演した日銀の内田真一副総裁は、こう言って市場の動揺を抑え込んだ。今回(9月18~19日)の金融政策決定会合でも、追加利上げは見送られた。
植田和男総裁は8月23日の衆参両院閉会中審査で、追加利上げの方針を変えない姿勢を示しており、日銀のタカ派スタンスは維持されているとみられる。市場関係者の間でも「利上げ継続」が多数派を占めるが、本当に利上げできる環境が続くのか、多くの関係者の脳裏に不安がよぎっているはずだ。

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