著書『マンガでカンタン! ファシリテーションは7日間でわかります。』を刊行した平石直之氏は、インターネット番組『ABEMA Prime』の中でスキルを磨いた。「ファシリテーション」とは、会議など人が集まる場を円滑に仕切り、議論の成果を最大化する技術。成功の秘訣は「準備が9割」だという平石氏の作法とは。
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――ビジネスマンの大事な仕事の一つに、会議を円滑に進めることがあります。成果を出す会議にするための、ファシリテーション力について教えてください。
「ファシリテーション力」とは、会議やミーティングなど人が集まる場を円滑に仕切り、その成果を最大化する技術です。そして、その役割を担うのがファシリテーターです。
これまで多くの番組や会議での経験から言えるのですが、同じ場所に人を集めて話し合いをしても、必ずしもいい結果が出るとは限りません。
技術を持つファシリテーターがいることで、会議で成果を出すことができて、組織やチームも活性化していきます。
扱う「テーマ」と「人」の準備を徹底的に
――いいファシリテーターになるために、最も大切なことは何でしょうか。
やはり事前の準備が9割です。ファシリテーターの準備の深さや広さによって、会議のクオリティが明確に変わります。
具体的には、扱う「テーマ」と「人」の準備です。「テーマ」については、社内資料やニュース、関連するYouTube動画など様々なメディアから情報を集めます。何を目的に情報収集するかという視点を忘れずに、会議の目的に応じて知っておくべき情報や知識を頭に入れます。
「人」の準備は、参加者の人となりや最近の仕事、周囲の人間関係まで把握します。可能であれば調べた情報をもとに、根回しを含めて、事前に直接コミュニケーションをとっておくといいでしょう。徹底的に事前準備をして、どのように議論を進めていくかシミュレーションしながら、本番の会議に臨みます。
――実際の会議の場で重要なことはありますか。
やはり「聞く力」は重要です。参加者の発言を丁寧に聞きつつ、主張や空気感を大切にしながら、議論を発展させていきます。会議で絶対に避けなければいけないのは、参加者が用意した意見を言えないことです。次の議題に行く前には、「何か言い残したことがある方はいませんか」という言葉を挟むことで、言葉を引き出す伴走者になってあげます。
あと、発言しやすい「場の雰囲気」を作ることも大事です。ファシリテーターは丁寧な言葉遣い、フェアな姿勢、明るい態度などで場を演出します。たとえば、緊張したり警戒したりしている参加者がいれば、アイスブレイクの優しい会話で不安を取り除いたり、かけ合い形式で話を引き出したり、さりげなくサポートします。「このファシリテーターならうまく言えなくても、何とかしてくれる」と思わせて、自由に本音を話せるムードを作ります。
――ファシリテーター次第で会議の成否が分かれると考えると、とても大切な役割ですね。
その場を仕切るファシリテーターは、「この人はたくさん話したので、あまり喋らせないようにしよう」などと思えば、臨機応変に話題を変えたりすることで、それを実行できる立場にあります。ただし、話したい人に話をさせないことは、本来は大変失礼なことです。ファシリテーターはそういう強い権限を持っているので、その権限を行使してまで議論に介入する場合は、そうする理由を論理的に説明できないといけません。参加者の全員が納得する、フェアなファシリテーションを心掛けます。
良い司会者は良い観察者
――ファシリテーションが苦手な人は、どのように対策すればいいですか。
他の人が進行する会議をよく観察することです。この会議ではファシリテーターが機能しているか、闊達な意見が出ているかなど、肌感覚で感じ取ることから始めます。
たとえば、「いま、ファシリテーターは聞くタイミングを逃したかも」、「この参加者は何かを言いたそう」といったことを敏感に察知します。逆に、発言したくない人に話を振って、その人に恥をかかせてしまうこともあるでしょう。会議を進行する人には、参加者たちの感情を姿勢や表情などから繊細にくみ取り、配慮することが求められます。鳥の目で全体を見ながら、他の人の進行を細かく観察することは、ファシリテーション力を上げるとてもいい機会です。
――ファシリテーター初心者が、明日の会議からすぐに使えるテクニックはありますか?
「要約」や「同調」の表現は実用的です。「要約」は、発言者の趣旨を分かりやすくかみ砕いて他の参加者に伝えます。重要度を強調することにも使えます。「同調」は、発言に対する同意をします。「おっしゃる通りです」と明確に賛同することで、発言者は気分がよくなり、さらなる意見を引き出すことができます。
また、本音で話してもらうために、それが許される場合は「ここは議事録に掲載しません」と伝えてから意見を聞くことも効果的です。本音で話さないと、この問題は解決できない、という意思を伝えます。ファシリテーターと参加者は、ある種の協力関係や共犯関係になり、連帯感を作ることができます。会議室のようなクローズドな環境では、特に有効です。
――具体的なケース別の対応について、教えてください。会議の場の雰囲気が重い時があります、どう対応しますか?
会議の雰囲気の重たさ加減は、ファシリテーターがコントロールします。始めるときに、「本日もお集まりいただきありがとうございます」とかしこまった口上を述べるより、「さあ、始めましょうか!」くらいの軽い形でいくと、場が和らぎます。
また、「社内の若手からこういう意見が上がっていますが、皆さんはどう思いますか?」、「今日のニュースでは、このようなことが報じられています」などで口火を切って議論を活性化させます。あえて第三者の意見を取り入れることで、それに対して人は賛同や反対などの発言をしやすくなります。
答えのない時代の、ポータブルスキル
――ファシリテーション力を磨くと、ビジネスマンにはどのようなメリットがありますか?
ファシリテーターを務めることは、その場の全員の時間を預かっていて、責任がとても重いものです。その場にふさわしい人たちが揃っているのに、話し合いで結果が出ない場合は、ファシリテーターに責任があります。ただ、その大きな責任に応えるために、ファシリテーターはテーマや人についてしっかり準備します。これがビジネスマンにとって、とても尊いもので、貴重な財産になります。
今は、明確な答えのない時代です。異なる意見の人同士で話し合い、合意形成や政策実行するためには、バランス感覚の優れたファシリテーターの存在が欠かせません。どこに行っても通用する大事なポータブルスキルだと思います。
- ◎平石直之(ひらいし・なおゆき)
大阪府松原市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1997年、テレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『報道ステーション』などで、フィールドリポーターを務める。2019年よりABEMAの報道番組『ABEMA Prime』の進行を担当。2024年からテレビ朝日『グッド!モーニング』(土・日曜日)も担当。著書に、『超ファシリテーション力』(アスコム)、『マンガでカンタン! ファシリテーションは7日間でわかります。』(Gakken)がある。