石破に引導を渡して株を上げた進次郎
「急なご案内で誠に恐縮です。この度、自由民主党総裁の職を辞することにいたしました」(9月7日)
日曜の夕方。当人が「急な案内」と説明するように、確かに唐突な辞任劇だった。
石破茂総理はこの日、緊急記者会見を開き、自民党総裁を辞任し次の総裁選挙には出馬しないことを表明した。
翌9月8日は総裁選の前倒しを求める署名の提出日であり、前倒しに必要な過半数に達する見通しが強まる中で、事実上、追い詰められた格好での辞任表明だった。
辞任にいたる数日間、石破とその周辺の動きは緊張感が漂うものだった。筆者は先週、石破と直接話したという政界関係者を取材した際、こんなことを言われた。
「石破は本気で解散を考えているぞ。(反石破派にとって)解散を覚悟で過半数(の署名を)集められるかどうかが焦点だ」
5日夜、石破は岩屋毅外務大臣、村上誠一郎総務大臣など親しい閣僚らと都内のホテルで会合を開き、解散に打って出るべきかどうかを話し合ったという。参加した1人は「(解散は)総理の専権事項。自分からは何も話せない」と語るに止めたが、解散カードを現実に検討していることが伝わってくる重苦しさがあった。
解散か、辞任か。揺れる石破に最終的に引導が渡されたのが、菅義偉自民党副総裁と小泉進次郎農水大臣との6日夜の会合だった。関係者によれば、菅は、党の分裂のきっかけとなる衆院解散や総裁選前倒しはなんとしても避けろと強く求めたという。つまり署名受付が始まる前に出処進退を明確にせよと石破に迫ったのだ。事実上の辞任勧告だ。
小泉「菅副総裁に私から電話して、“菅副総裁からお話しされるのが一番ではないか”と。そういった中で、最終的に“小泉さんも一緒に行こう”という話をいただいて、石破総理がよければということで、ああいった形になりました」(9月8日)
会談内容の詳細について小泉は語らないが、自分が主導して3者会合を取りまとめたことは認めた。石破の辞任表明により次期総裁レースの号砲が鳴ったことになるが、石破に最後のとどめを刺したのは菅であり、その舞台回しをしたのが小泉だ。「党分裂回避の功労者」として小泉の党内の評価は上がった。
「勢いとしてはやはり小泉だな。特に党員は“石破アレルギー”が強いから、よく石破の暴走を抑えてくれたという評価になるだろう」(自民党関係者)
前回の総裁選では1週間で失速
小泉自身は現職の閣僚でもあることから、現時点で総裁選への出馬にはいまだ具体的言及を避けているが、中堅若手の期待も高まる中、出馬は必至という見方が強い。
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