トランプ「ガザ和平計画」はいかにして生まれたか――ネタニヤフ首相の失敗から学ぶ「同盟マネジメント」の教訓
ドナルド・トランプ米大統領が9月29日に提案した、20項目の和平計画によって、ついにガザの恒久的停戦が実現する可能性が生まれました。
10月6日から3日にわたって行われたエジプトのシャルムエルシェイクでの詰めの交渉により、ガザの第一段階の和平計画実施案(注:イスラエルのメディアがスクープした「ガザ戦争の包括的終了」と題された和平計画実施案を参照)が関係当事者によって合意され、9日までにイスラエル政府の閣議は、宗教右派政党の反対にかかわらず、ついにこの和平計画を認めたのです。
これにより、10月13日までにはイスラエル人の人質全員がハマースによって解放されるとともに、10日中にはガザに展開していたイスラエル軍は合意された地点(イエローライン)にまで撤退することなります。並行して、イスラエルに捕えられていた合計1950人のパレスチナ人囚人も解放される予定です。
今回の和平計画合意に至るプロセスについて、その全貌が次第に判明してきていますが、その最大の成果、そして最大のドラマは、一にも二にもトランプ大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に、この和平計画を受け入れさせたことにあります。
例えば、米国政府において中東和平プロセスに長らく携わったアーロン・デイヴィッド・ミラー・カーネギー国際平和基金上席研究員は、「トランプは、これまで自分が仕えてきたカーターからブッシュまでの6つほどの政権の中でも、イスラエルの首相にアメリカの和平計画を受け入れさせることができた唯一の米国大統領だ」と評価しています。
無論、イスラエル側は和平計画に“トリップワイヤー”のような仕掛けを組み込むことにより、いつでもイスラエル軍をガザに再展開させる用意があることを示していますが、今回ばかりはネタニヤフ首相はトランプ大統領の怒りの前に全面的に降伏したと言って良いかもしれません。
本稿では、その劇的な外交プロセスを改めて吟味するとともに、中東地域における米国の最も緊密な「事実上の同盟国(de facto alliance)」であるイスラエルの自律的な動きとその限界を見極めます。そして、米国との間で我が国のような同盟国がどのように振る舞えばよいのか、この中東の物語が私たちに示唆する意味合いをよく考えてみたいと思います。
「危機」が「チャンス」へ転回した時
今回の和平計画への動きが生じたのは9月9日です。まさにその日にイスラエルは米国の事前の了解を得ることなく、米国の準同盟国であり和平の仲介役も担ってきたカタールに対して、同国の首都ドーハに滞在中のハマース幹部を殺害する目的で空爆を加えたのです。この空爆が失敗に終わった後で、ネタニヤフ首相は改めてカタールへの再攻撃まで示唆していました。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。