トランプ大統領の発言とアクション(10月23日~30日):ベッセント財務長官、「責任ある積極財政」に釘を刺す
[11月3日追記]ホワイトハウスは11月1日、10月30日に行われた米中首脳会談での合意内容を発表した。
中国によるレアアース輸出規制の停止や米中双方が24%の関税上乗せ停止措置を米中間選挙(2026年11月3日)後まで延長するなど、トランプ政権にとって大きな成果が認められる。
以下、ホワイトハウス発表のファクトシートに基づき、主要なポイントを確認する。
【米中合意、主な内容】
〇米国へのフェンタニル製造に使用される物質流入の阻止
〇レアアースやその他の重要鉱物をめぐり、現行および新規の輸出規制を事実上撤廃
〇米半導体メーカーおよび主要企業に対する報復措置の終了
〇米国産大豆など農産物の中国市場へのアクセス拡大
【米国の対応】
〇フェンタニル関税引き下げ:米国はフェンタニル流入阻止を狙った関税措置を11月10日から20%→10%に引き下げ
〇関税措置:中国への相互関税24%導入停止を26年11月10日まで延長(現在適用されている10%の相互関税は、この停止期間中も継続)
〇関税免除:通商法301条に基づく一部関税除外措置の期限を、25年11月29日から26年11月10日まで延長
〇エンティティリスト対象企業の子会社への制裁措置延長:2025年11月10日から1年間、「特定企業の関連会社を対象とするエンドユーザー規制の拡大」に関する暫定最終規則の実施を先送り
〇中国への海事、物流、造船業に対する301条調査、船舶入港料の徴収:25年11月10日から1年間、中国による海運・物流・造船分野の支配的戦略に関する1974年通商法301条調査に基づく米国側の対応措置の実施を停止。その間、米国は301条に基づき中国との交渉を継続しつつ、韓国および日本との歴史的な協力関係を通じて米国の造船業の再活性化を推進
【中国の対応】
〇レアアース規制の停止:2025年10月9日に発表されたレアアースおよび関連措置に関する新たな輸出規制の世界的実施を停止
〇レアアース・重要鉱物関連における一般ライセンスの発行:レアアース、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、黒鉛の輸出に関して、米国の最終利用者およびその世界中の供給業者向けに有効な一般ライセンスを発行。これは、25年4月および22年10月に導入された規制の事実上の撤廃を意味する
〇フェンタニル対策の強化:特定の化学物質の北米向け出荷停止、その他の化学物質については世界的に厳格な輸出管理を実施
〇関税除外措置の延長:米国からの輸入品に対する24%の関税措置見送り、2026年12月31日まで有効とする
〇報復関税の全面停止:2025年3月4日以降に発表された報復関税をすべて停止。対象には米国産の鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花、ソルガム、大豆、豚肉、牛肉、水産物、果物、野菜、乳製品などが含まれる
〇非関税報復措置の撤廃:2025年3月4日以降に講じられた米国企業に対する非関税的な報復措置(エンドユーザーリストや信頼できない企業リストへの掲載など)をすべて停止または撤廃
〇米国産大豆購入の確約:25年末の2カ月間で米国産大豆を少なくとも1,200万トン購入し、2026年~2028年には毎年2,500万トン以上購入する予定。また、米国産ソルガムや広葉樹原木の購入も再開
〇蘭半導体大手ネクスペリア(中国企業が親会社)施設からの供給再開:中国国内のネクスペリア施設からの貿易再開を確保し、重要なレガシーチップの世界供給を維持
〇海運・造船分野に関する報復措置の撤廃:米国が通商法301条に基づき中国の海運・物流・造船分野の支配的戦略を調査したことへの報復として導入された制裁措置を撤廃(船舶入港料の徴収を指す)
〇米半導体メーカーへの調査終了:米国企業に対して行っていた反トラスト法、独占禁止法、反ダンピング調査などを終了
[11月3日追記、ここまで]
「南部の紳士」は相手を立てつつ釘を刺す
スコット・ベッセント財務長官が生まれたサウスカロライナ州は米国の南部に位置し、そこでは「名誉の文化(culture of honor)」が受け継がれている。アメリカ精神医学会(APA)の辞書に基づけば、「名誉の文化」とは、評判・尊厳・名誉の擁護を重視するもの。いわゆる南部紳士は、礼儀正しく、他者に配慮するとされている。
その南部紳士そのままに、ベッセント氏はインタビューやX(旧ツイッター)の投稿などで、相手に敬意を表する場面が多くある。米中首脳会談後のXでは、「祝福の言葉はすべてトランプ大統領に贈られるべきだ……彼と習主席との関係が、相互の尊重と理解に基づいた会談の雰囲気を築いた。トランプ大統領は、他のどの指導者とも比べものにならないほど、世界中から尊敬を集めている」と、賛辞を惜しまない。上司であるトランプ氏だけでなく、10月15日の日系メディア向けのインタビューでは、植田和男・日銀総裁を「有能な人物」と評価。片山さつき財務相との会談後のXの投稿でも、「彼女の財政政策に関する見解を聞けて嬉しく思った」など、相手を立てる表現が目立つ。
しかし、「名誉の文化」は別の側面を併せ持つ。前述したAPAに基づけば「ある地域、国家、民族集団、またはコミュニティにおいて、評判・尊厳・名誉の防衛を重視する」。自らの名誉や評判に対し、脅威や挑戦とみなされる事態には、時に攻撃的に反応する場合があるという。
日銀の利上げと円安是正を進言
植田氏や片山氏に対するベッセント氏の発言には、少なくとも表と裏が見え隠れする。
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