中国の対日経済威圧は「韓国THAAD問題」の再現か 2月の「春節」と3月の「消費者権利デー」に要警戒

執筆者:武田淳 2025年12月26日
エリア: アジア
日本のアニメやアーティストなども、コンテンツ産業を成長の柱の一つに据える中国には目障りな存在かもしれない[日本の人気キャラクターの前で写真を撮る人々=2025年12月19日、中国・北京]AFP
日本に対する中国の経済的威圧は、2016年から2017年にかけての「韓国THAAD問題」と似た経過をたどっている。当時、中国人の訪韓客は半減し、官製不買運動に晒され中国市場から撤退を余儀なくされた韓国企業もある。K-POPなどコンテンツ産業まで標的にされた裏には、国内産業を育成したい中国の思惑もあった。直近の課題は春節(2月15日~2月23日)の訪日客激減、消費者権利デー(3月15日)の恣意的な反日キャンペーンだろう。

出口の見えない日中関係

 高市早苗政権下の日中関係は、10月31日に慶州で行われた首脳会談で「戦略的互恵関係」の推進を再確認し、順調なスタートを切ったように見えた。ところが翌日、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議で台湾代表と会談したツーショット写真をSNSに投稿、さらには記者会見で新疆ウイグル問題にコメントしたことが習近平政権の気に障り、早くも雲行きが怪しくなり始めていた。ただ、その直後に筆者が出張した上海では、中国政府の反応がいつになく厳しいという指摘はあったものの、中国側に当初の抗議以降は目立った動きがないため、時間が解決してくれるのではないか、というムードが支配的であった。

 周知の通り、日中関係が急速に悪化したきっかけは、11月7日の高市首相による台湾有事を巡る国会答弁である。13日には中国外交部が金杉憲治駐北京大使を呼び出し強く抗議したうえで高市答弁の撤回を要求。以降、日本への渡航を当面控えるよう注意喚起、留学の慎重な検討を求めたほか、邦画2本の公開延期や水産物輸入の事実上の停止など、いわゆる経済的な威圧が相次いだ。その頃、こうした中国の動きの背景として外交筋などから聞かれたのは、面子を潰された習近平国家主席が日中首脳会談を提言した中国外交部を厳しく叱責したこと、そして責任問題への発展を恐れた外交部の提案する対日強硬策を習主席承認したらしいということである。

 その後、中国の威圧的な行動は自衛隊機に対するレーダー照射にまで至ったが、高市首相は中国の要求に対して、答弁を修正する形での「事実上の撤回」までにとどめている。高市答弁は確かに現役首相としては前例のない領域に踏み込んだと言えるが、日本政府の公式見解の範囲内であり、そもそも他国の首相の国会答弁を撤回せよとは内政干渉も甚だしく、中国の要求に応じないのは当然の対応であろう。とはいえ、それで引き下がる中国ではなく、今のところ著しく悪化した日中関係の出口は全く見通せない。

韓国製バッテリー搭載EVを補助金の対象外に

 今後の展望について、ある韓国大使館の外交官からは、「THAAD問題」が参考になるのではないか、との指摘があった。THAAD(ターミナル段階高高度地域防衛システム)とは米軍が開発した弾道弾を迎撃するためのミサイルシステムであり、2016年7月、在韓米軍への配備が決定され、2017年3月に配備が開始された。

 これに対し中国政府は猛烈に反発、配備開始を受けて韓国への団体旅行を禁止する報復措置を行った。

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
武田淳(たけだあつし) 伊藤忠総研・代表取締役社長/チーフエコノミスト。1990年 3月、大阪大学工学部応用物理学科卒業、2022年3月、法政大学大学院経済学研究科修了。1990年、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。第一勧銀総合研究所(現みずほ総合研究所)出向、日本経済研究センター出向、みずほ銀行総合コンサルティング部を経て、2009年1月、伊藤忠商事入社、マクロ経済総括として内外政経情勢の調査業務に従事。2019年 4月、伊藤忠総研へ出向。2023年4月より現職。
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