
米中関税引き上げ合戦再開
日本時間の4月3日早朝、ドナルド・トランプ大統領は相互関税を発表、中国に対しては34%関税を上乗せするとした。さらに、中国が報復関税を決めたことを受けて、9日の発動時にはこれを84%まで引き上げ、中国も報復関税引き上げで応じたため、10日には125%まで引き上げるとした。その結果、本校執筆時点で第2次トランプ政権による対中追加関税は、すでに実施済みの20%を加えると合計145%にも達することになる。
トランプ大統領は、大統領選の際に中国に対する関税を60%引き上げるとしていた。そのため、トランプ関税の影響については多くの機関が試算しているが、アジア経済研究所によると、米国が中国に対して60%、その他の国に対して10%の追加関税を賦課した場合、中国のGDP(国内総生産)は主に対米輸出の落ち込みにより0.9%押し下げられるそうである。実際には関税の引き上げ幅が145%まで拡大したため、そのインパクトはGDP比で2%を超える可能性があり、中国が目指す「5%前後」の成長率目標の達成を困難にすることは間違いない。
中国政府は、米国に対する報復措置として、2月にLNG(液化天然ガス)や石炭など80品目に、3月には小麦やトウモロコシ、大豆など740品目に、それぞれ最大15%の追加関税を課した。ここまではトランプ関税に比べると控え目であったが、その後、上記の通り米国が関税引き上げ幅を拡大させたことに対する報復措置を決め、現時点で計84%の追加関税を全ての輸入品に課すことを決めている。
これらの報復措置は、中国にも無視できない影響がある。中国の輸入に占める米国製品の割合は6.4%、輸入総額はGDPの13.4%であるため、米国からの輸入品価格の上昇が国内物価に与えるインパクトは、両者を掛け合わせた1%弱とみることができる。これを踏まえると、仮に米国からの輸入品の価格が関税引き上げによって9割程度上昇、代替が効かなければ中国の物価は1%近く押し上げられ、景気は個人消費を中心に下押しされ、5%成長の目標達成がより遠のくことになる。
着実に進められたトランプ対策
それでも中国政府がトランプ政権に対し強気な対応に出た背景として、米中対立の激化を想定し十分に準備してきた点が指摘できよう。その象徴は、米中デカップリングに対する抵抗力を高めるため、他国に依存しないという趣旨の「自立自強」の方針である。
実例を示すと、大手通信機器メーカーのファーウェイ(華為技術)の2024年決算は売上高が前年比で22%も増えたが、その牽引役は38%増を記録したスマートフォンなどの消費者向け部門である。同社は2019年以降、米国の規制強化により最先端の半導体が入手できなくなったため、新製品の開発が遅れ売上が伸び悩んでいたが、一昨年の8月、自社開発した半導体を使ってハイエンドの新製品を発売するに至り、以降は順調に売上を伸ばしている。
ファーウェイの事例がハード面での「自立自強」の象徴だとすれば、ソフト面では生成AIのDeepSeekが筆頭に挙げられよう。奇しくもトランプ大統領の就任日でもある1月20日、同社から最新のLLM(大規模言語モデル)「DeepSeek-R1」が発表され、その開発費の少なさと能力の高さが世界中から注目を集めた。1月29日に公開されたアニメ映画「ナタ2」(日本公開時のタイトルは「ナタ 魔童の大暴れ」)も一例であり、中国内だけでなく北米や豪州、日本でも上映され、世界興行収入はアニメ映画で歴代世界一を記録した。
今年3月上旬の北京出張では、中国経済がマクロ的には不動産不況や米中対立の激化により低迷が続いており、回復には政策面からの押し上げを必要とすることを確認したが、同時に、これらの事例が示す通り中国製品がハードだけでなくソフト面でもグローバルな競争力を高めており、それにより中国全体が自信を取り戻しつつある印象も強く受けた。
全人代で示された5%成長実現の具体策
中国の強気な姿勢は、全国人民代表大会(全人代)で示された今年の成長率目標からもうかがえる。「政府活動報告」に記されたGDP成長率の目標は、前述の通り「+5.0%前後」であり、中国を取り巻く環境が悪化する中でも昨年と同じ成長率が維持された。ただ、その理由の一つに「中長期発展目標とも紐づけて、難題に立ち向かって発奮努力するという鮮明な方向性を際立たせるため」とあり、敢えて高い目標に挑戦するという意志と意図も示された。
補足すると、習近平国家主席は2020年11月、GDPを2035年までの15年間で倍増することは可能だとの見方を示したが、これが「中長期発展目標」だとすれば、達成するには年平均4.7%の成長が必要となる。つまり、中長期的な目標を達成するためには、今年も不動産市場や米中対立激化といった難題を乗り越え、5%程度の成長を実現する必要がある、ということになる。

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