ハンガリー「マジャル新政権」は親EU・親ウクライナへ傾くのか?(上)

執筆者:石川雄介 2026年5月1日
タグ: EU
エリア: ヨーロッパ
ポーランドをはじめとするヴィシェグラード4カ国との関係改善も課題に[アントニオ・コスタ欧州理事会議長(右)と握手するマジャル次期首相(左)=2026年4月30日、ベルギー・ブリュッセル](C)REUTERS/Yves Herman
EU(欧州連合)内で「最も親ロシア的」と呼ばれたオルバーン政権が下野し、ハンガリーは16年ぶりの政権交代を迎える。マジャル率いるティサ党の新政権は「親EU・親ウクライナ」と観測されるが、ティサがすべての政策でオルバーン路線からの決別を目指すわけではない点も留意したい。新政権に想定される対外政策の特徴を、主要人事と主要分野から検討する。

 2026年4月12日のハンガリー総選挙では、16年にわたり政権を担ってきたオルバーン・ヴィクトル首相率いる与党フィデスが大敗し、ティサ党による政権交代が実現することになった。

 オルバーン政権は、従来よりEUに対して懐疑的な姿勢を示してきたが、近年は対決姿勢をさらに強め、ウクライナ支援をはじめとして拒否権を頻繁に行使してきた。EUの拒否権をまとめたデータベースによれば、2011年6月以降にEU首脳会議や閣僚級会合で行使された外交に関する拒否権(48回)のうち、約半数はハンガリーによるものとされる1。また、エネルギー分野を中心にロシアとの関係を強めるとともに、中国とも企業進出やインフラ投資を通じた関係を深めてきた。

 ティサ党の勝利を受け、日本や欧米の多くのメディアでは、マジャル新政権発足後のEUやウクライナとの関係改善、さらにはロシアや中国への依存からの脱却に期待する見方が広がっている。対外政策の分野でマジャル新政権はいかなる姿勢ないし政策路線をとるのだろうか。本稿では、マジャル・ペーテルやティサ党幹部の発言、合計240頁にわたる党の綱領、そして海外の研究者による分析などをもとに、ハンガリー新政権が現時点で掲げる外交政策の方針を整理することとしたい。

新政権において誰が対外関係を担うのか

 そもそも、政権交代を成し遂げたティサ党のマジャル新政権において、誰が対外関係を主導するのだろうか。マジャル党首は2026年1月、ビジネス界の「ビッグネーム」とされる人物をエネルギー担当および外交担当の大臣候補としてそれぞれ指名しており、マジャル党首自身に加えて、これら両候補が重要な役割を果たすものと考えられる。

 まずは、間もなく首相に就任する予定のマジャル党首である。ティサ党を本格始動させる以前は、開発銀行の監査役や学生ローンセンターCEOなど国内職が中心であったが、対外関係の分野では、2024年の欧州議会議員としての経験に加え、かつてハンガリーのEU代表部において外交官を務めた経歴を有する。

 次に副首相および外交担当の閣僚には、オルバーン・アニータ(オルバーン・ヴィクトル首相との血縁関係はない)が就任予定である。同氏は米タフツ大学フレッチャースクールで博士号を取得し、『Power, Energy, and the New Russian Imperialism』を執筆するなど、アトランティスト(大西洋主義者)であると同時に、ロシアの外交政策やエネルギー政策に精通している知露派として知られる2。これまでエネルギー安全保障担当特使や英通信大手ボーダフォンのグループディレクターを歴任してきた。選挙期間中には、欧州を中心に国外にいるハンガリー人コミュニティを訪れながら、現地の政府高官との面会も積極的に実施しており、外国政府高官とのネットワーキングをすでに始めていたものとみられる。

 さらに、経済開発・エネルギー担当相にはカピターニ・イシュトバーンが起用される見込みである。同氏は英石油大手シェルのグローバル執行副社長を務めた経験を持ち、ハンガリー政府から勲章を授与された実績を有するなど、オルバーン・アニータと同様に国際的に活躍してきた企業出身者である(表1)。

 このような布陣の下で、新政権の対外政策はいかなる特徴を帯びるのか。以下では主要分野ごとに検討する。

【表1:外交分野に携わる主なティサ党幹部(党首・政策顧問)3

対EU関係:関係改善を図るも一部政策においては反対

 マジャル党首率いるティサ党の綱領では、以下のように述べられており、欧州への回帰を明確に主張している。

「同盟国に対する予測不可能で、しばしば裏切りと受け取られる政策は、ハンガリーを真の同盟国から孤立させた。(中略)我々は東ではなく西を選び、(中略)妨害ではなく主導を、破壊ではなく構築を行う」4

 こうした指針を踏まえ、米ジャーマン・マーシャル基金のヴェーグ・ジュジャナ(Végh,  Zsuzsanna)は「ティサ党政権の下では、ブダペストはヨーロッパと対立するのではなく、協力へと軸足を移すだろう」と指摘する5。オルバーン政権がEUの外交政策そのものに拒否姿勢を強めてきたのに対して、ティサ党が欧州への回帰と協力姿勢を示した意義は大きいということなのであろう。

 ただし、ティサ党はすべての政策においてフィデスからの決別とEUとの同調を目指しているわけではない点には留意が必要である。その一例が移民政策である。ティサ党の綱領では「不法移民に対するゼロトレランス」を掲げ、EUの移民割当制度や移民協定に反対の立場を示している。英ガーディアン紙のジェニファー・ランキンも、移民・難民政策を「緊張を高める可能性がある」分野の一つとして挙げ、やや警戒心を持ってティサの対EU関係を論じている6。しかし、ティサがEUとの建設的な関係を志向していることを踏まえれば、こうした政策分野においても少なくともEUとの交渉のテーブルにつく可能性が高く、その点でもEUにおけるハンガリーの政権交代の意義は小さくない。

対隣国関係:ポーランドとの関係改善とV4の再活性化

 なお、EUとの関係に関連して補足すれば、マジャル新政権は、オルバーン政権下で関係が悪化していたポーランドをはじめとするヴィシェグラード4カ国(V4=チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)との関係改善にも注力する方針である。オルバーン・アニータは、2026年1月に実施されたマジャル党首との対談において、「最初に強化すべき事項の一つは、1000年にわたるハンガリー・ポーランドの友好関係の回復である」と述べている7。また、選挙後にはマジャル党首が、新政権の最初の訪問先をポーランドとし、その後ブリュッセルおよびオーストリアを訪問する方針も示されている8

 こうした関係改善への期待を反映してか、ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、マジャル党首の選挙勝利を受け、電話で祝意を伝えている。その際、「ハロー、ペーテル? いやあ、とてもうれしい。おそらく君以上に私の方がうれしいのではないか」9と語り、強い期待感をにじませた。

 V4諸国は、その枠組みが発足した1991年以降、経済、貿易、安全保障など幅広い分野で協力関係を築いてきた。しかし、とりわけロシア・ウクライナ戦争の勃発以降、対ロシア認識やエネルギー政策をめぐる各国の立場の違いが顕在化し、とりわけ政治面での協力は停滞していた。こうした状況に対し、オルバーン・アニータは「4カ国の総和は単なる『4』ではなく、各国の単純な合計を上回る力を持つ」とマジャル党首との対談にて指摘し、V4協力の再活性化の重要性を強調している。

 V4と日本との関係は長い。2003年、2004年には小泉純一郎首相が「V4+日本」対話の推進で合意し、2013年には初の首脳会合が開催されている。活動が停滞していたV4が再び活性化するのか。ハンガリーとEUの関係に加え、隣国との関係、さらにはV4の枠組みの行方が注目される。(「下」へつづく)

 

1 Michal Ovádek. “Tracking EU Member States’ Vetoes.” https://michalovadek.github.io/eu-veto-tracker/

2 Király András and Dezső András. “Orbán Anita, a leendő külügyminiszter lehorgonyozna a nyugati szövetségi rendszerben, és felszámolná az orosz függőséget,” Telex, April 20, 2026. https://telex.hu/belfold/2026/04/20/orban-anita-kulugyminiszter-portre-atlantizmus-oroszorszag-energiafuggetlenseg 

3 石川雄介「オルバーン強権政治への審判:4月ハンガリー総選挙に向けた与野党の注目ポイント」(IOGコメンタリー、2026年1月26日) https://instituteofgeoeconomics.org/research/2026012501/ 

4 ティサの綱領 “Működő és Emberséges Magyarország”より引用。以下、「綱領による記述」とした箇所は、すべて同文書に基づく。https://mukodoorszagot.hu/ 

5 Zsuzsanna Végh. “Tisza’s foreign policy offer: Plans for a post-Orban Hungary,” European Council on Foreign Relations, February 11, 2026. https://ecfr.eu/article/tiszas-foreign-policy-offer-plans-for-a-post-orban-hungary/ 

6 Jennifer Rankin. “EU relieved to see back of Orbán but Magyar’s Hungary may still present problems,” Guardian, April 13, 2026. https://www.theguardian.com/world/2026/apr/13/why-peter-magyar-hungary-likely-become-normal-eu-member-state 

7 オルバーン・アニータとマジャル党首とのYouTubeでの対談より。https://www.youtube.com/watch?v=v7ADrxxLLNk 

8 “Hungarian election winner Magyar vows to rebuild EU relationship after stunning defeat of Viktor Orbán,” Guardian, April 13, 2026. https://www.theguardian.com/world/live/2026/apr/13/hungary-peter-magyar-viktor-orban-trump-russia-ukraine-iran-eu-europe-latest-news-updates 

9 https://x.com/donaldtusk/status/2043482844560024061

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
石川雄介(いしかわゆうすけ) 公益財団法人国際文化会館 アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 研究員 兼 デジタル・コミュニケーション・オフィサー。1995年名古屋生まれ。明治大学政治経済学部卒、英国サセックス大学大学院修士課程(汚職とガバナンス専攻)修了、ハンガリー・オーストリア中央ヨーロッパ大学大学院修士課程(政治学)修了。トランスパレンシー・インターナショナルのハンガリー支部でのリサーチインターン、APIでのインターン(福島10年検証プロジェクト)及びリサーチ・アシスタント(CPTPP・検証安倍政権プロジェクト)等を経て現職。埼玉学園大学経済経営学部 非常勤講師(秋学期担当)、国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)外部寄稿者も兼職。専門は、ヨーロッパ比較政治、現代日本政治、政策過程論、ガバナンス、教育と政治、反汚職政策。主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)、『目にする情報の半分以上が偽・誤情報になる 情報安全保障の新論点』(共著、星海社新書、2025年)などがある。
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