所信表明演説 「有言実行」の「言」は何なのか?

執筆者:原英史 2010年10月1日
カテゴリ: 政治
エリア: アジア

 

菅総理の所信表明演説が行われた。
「有言実行」を前面に打ち出しているが、気になる点が少なくない。
 
(1)まず、菅内閣になってから迷走の続く「国家戦略局」の話が出てこなかった。7月の参院選後いったん「縮小」と言った後、先月の代表選公約では「国家戦略室の局への格上げ」に転換していたが、今日の所信表明では言及がなかった。
 
また、「国家戦略局」のいわば目的にあたる上位概念が、昨夏まで民主党の最大の売り物だった「脱官僚依存」や「政治主導」。
先月の代表選公約では、いちおう公約の三本柱の一つとして「官邸主導・政治主導」が掲げられていたのだが、今日の所信表明では、こうした話も一切登場しなかった。
 
「たしかに言っていないが、『やらない』とも言っていない」と思う人もいるかもしれないが、そうではない。
所信表明のような“政府文書”の場合、「書いていない」こと自体が重要なメッセージだ。
政権として本気で取り組もうとする課題は、必ず所信表明に入れるものなのだ。
 
今日の演説は、ふつうに読み解けば、
・「政治主導」「脱官僚依存」は断念、
・「国家戦略局」は、代表選では「格上げ」と言ったが、再び方針転換。少なくとも政権が本気で取り組む課題ではない、
ということだ。
 
(2)同じく民主党のかつての看板だった「天下り根絶」も完全に消え去った。
6月の所信表明ではまだ、「天下り禁止などの取組も本格化させます」と言っていたのだが、その後、何ら「本格化」はなされないまま、これも断念してしまったのだろうか。
 
公務員制度改革については、政府は所信表明に先立って、「国家公務員法改正案」を臨時国会に提出せず、先送りすることも決めている(提出予定法案一覧から抜けている)。
つい先日の代表選公約で「公務員制度改革を加速」と言っていたのだが、これも早くも忘れてしまったようだ。
 
ほかにもコメントしたい点は多々あるが、きりがないので稿を改めたい。
 
要するに、政権交代以来、「言葉」がころころ変わる状況が続く。
この状況で「有言実行」と言われても、何を実行するのか、さっぱり分からない。

(原 英史)

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執筆者プロフィール
原英史(はらえいじ) 1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『国家の怠慢』(新潮新書)など。
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