旅先ではついつい財布の紐がゆるむもの。外国通貨だと、自国では絶対買わないものも衝動買いしてしまう。その時のわくわくする気持ちと軽率さは、外国でのアバンチュールに似ている。フランス語でje t'aimeと囁く時の無責任を伴った大胆さ。この密やかな楽しみはユーロで失われてしまう。ユーロでの買い物なんて、エスペラント語での愛の告白のように味気ない!――こう嘆くのは『さらば、美しい紙幣たち』というエッセイ集に寄稿したドイツの作家だ。 昨年末にドイツで出版されたこの本は、南はギリシャから北はフィンランドまで、ユーロ参加国の作家十人が、消えゆく通貨の裏にある歴史、文化への熱い思いを綴ったもので、当地で静かなベストセラーとなっている。文化人の中には、ユーロ導入でヨーロッパが画一化し、各国の個性が消えていくことへの懸念を口にする人も多い。欧州統合の経済的なメリットを頭では理解しながらも、ユーロ導入のように上から与えられるプロセスに、どこか割り切れなさを感じているのだ。
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