饗宴外交の舞台裏 (73)

イギリス大使公邸を厨房から支えた40年

執筆者:西川恵 2004年2月号
エリア: ヨーロッパ

 大使の料理人は神経の休まることのない職業である。世界の美食を知る舌の肥えた大使に仕えるだけでなく、大使公邸の評価は往々にして大使の人柄以上に料理で定まるところがあるからだ。「あの大使公邸は美味しい」「あそこはもう一つ」といった評判は口伝で外交団、政府高官の間にあっという間に広がる。 私が聞き及んでいる範囲で、英大使公邸の料理は「美味しい」といわれている三本の指に入る。その料理を四十年間にわたって支えてきたのが総料理長の畠山武光さん(六〇)である。仕えた大使は現在のゴマソール大使を含め十一人。一九七五年に来日したエリザベス女王をはじめ、チャールズ皇太子、故ダイアナ妃、それにサッチャー、メージャー、ブレアなどの歴代首相ももてなしている。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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