近代軍事学の「開祖」であるクラウゼヴィッツは、政府、軍、国民を「戦争の三位一体」と称した。すなわち、戦争には、国民の感情、軍のプロフェッショナリズムと政府の政治的知性という3つの側面が融合しているという。
戦争の本質は原始的な暴力の行使であって、憎悪と敵意という感情に裏付けられるが、それは主として国民に属する。また、戦争には様々な予測外の事態に応じた臨機の判断が必要となるが、それは主として将帥の「アート」に属する。さらに、戦争は政治の手段であって、戦闘だけでなく政治的妥当性という冷静な知的判断に左右されるが、それは主として政府に属する。
戦争の敗北は国の破局を意味する。勝ったとしても、イラク戦争後の米国のように国は疲弊し、破局のふちに立たされる。今日の戦争に勝者はいない。「政治の手段としての戦争」が引き合わないものとなった今日、「戦争は他の手段をもってする政治の継続」という有名な命題は、「政治は他の手段をもってする戦争の継続」と読みかえなければならないだろう。それは、今日の政治を評価する指針となりうる。

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