外に出ると、すでに夕闇が迫っていた。思いのほか美術館に長居したのかと慌てて時計を見ると、まだ午後二時半だ。ストックホルムでの冬の一日はこの調子で暮れていくらしい。 スウェーデン国立美術館では、十九世紀から二十世紀初頭のスカンジナビアの画家たちが、北欧ならではの風景をどのように描いたかというテーマの美術展を行なっていた。うっそうと茂る森、湖の澄み切った水面に映る真昼のような白夜の青空、雪解け水が堰をきって流れる壮観な春のフィヨルド――。 興味深いのは、北欧の美術史では、自然を美化せずにあるがままに描く「写実主義」から、表向きは具象画のように見えても、その裏に画家が自分の主観的な心象風景を潜ませている「象徴主義」に突然移行してしまうことだ。フランス美術史の変遷のように、この間にあるはずの「印象主義」が、この北の土地ではすっぽりと抜け落ちてしまう。

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