中東―危機の震源を読む
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改宗騒動が浮彫りにした人権概念の乖離
エジプトで「改宗」というイスラーム教最大のタブーが公然と提起され、騒動となっている。問題の渦中にいるのはムハンマド・ヒガージーという人物で、イスラーム教徒として生まれたが、各宗教の比較に関する思索を進めた末に、九年前にキリスト教への改宗を断行したという。 イスラーム教では、イスラーム教から他宗教への改宗(「離教」)は絶対的な罪であり、認められない。「背教」の最たるものとされ、死罪にあたる。これは一部の「狂信者」あるいは「保守派」の厳格な解釈ではなく、社会通念の次元で定着している。改宗が「許されない」という次元の話ではなく、普遍真理であるイスラーム教から離脱することなど「ありえない」という共通認識が根本にある。いわば人倫にもとる行為、あるいは「物理法則」に逆らう行為とみなされているといっていいかもしれない。

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