「株」の市場が全世界で大混乱した。上げも凄いが、下げはもっと凄かった。本誌が読者の手に届く頃にも、風波はまだ鎮まっていないだろう。 一九三〇年代の大恐慌の頃、株価はテレタイプで来た。機械がガチャガチャと鳴ってチッカーテープを吐き出す音が、それを見る人間の恐怖の何分の一かを分担してくれた。いまでは電子の数字が、音もなくパネル上に並ぶ。その怖さ、ひとしおだろう。刺客は無言で刺す。アイスランドは、運用を間違ったばっかりに静かに沈没した。 いまは、それに加えて世界中が繋がっている。一犬が吠えるかと見てとると、万犬が先回りして吠える。破局を招きやすい条件が整っている。私も暗い顔で証券欄を見ていた。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン