「豚インフルエンザ」の世界的感染拡大が危惧される中、エジプトでは全く別種の政治・社会紛争が発生した。まだ一人の感染者も出ていないにもかかわらず、国内で飼育されている三十五万頭ともいわれる豚の殺処分を行なうよう政府に迫る声が国会(人民議会)各党の議員から湧き上がった。エジプトの保健相は四月二十九日、全頭処分を発表し、実際に着手されている。 これは中東の外から見れば、不思議なニュースに感じられるだろう。新型インフルエンザへの対策を全力を挙げて行なわなければならないということに、どの国でも異論はないだろう。だからといって、豚を全頭処分するという対策を取った国はエジプト以外ない。世界保健機関(WHO)も、豚が人への感染を媒介しているとの証拠はないとして、エジプト政府の措置を批判している。

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