中東―危機の震源を読む (54)

豚の全頭処分が噴出させたエジプトの矛盾

執筆者:池内恵 2009年6月号
タグ: 日本
エリア: 中東

「豚インフルエンザ」の世界的感染拡大が危惧される中、エジプトでは全く別種の政治・社会紛争が発生した。まだ一人の感染者も出ていないにもかかわらず、国内で飼育されている三十五万頭ともいわれる豚の殺処分を行なうよう政府に迫る声が国会(人民議会)各党の議員から湧き上がった。エジプトの保健相は四月二十九日、全頭処分を発表し、実際に着手されている。 これは中東の外から見れば、不思議なニュースに感じられるだろう。新型インフルエンザへの対策を全力を挙げて行なわなければならないということに、どの国でも異論はないだろう。だからといって、豚を全頭処分するという対策を取った国はエジプト以外ない。世界保健機関(WHO)も、豚が人への感染を媒介しているとの証拠はないとして、エジプト政府の措置を批判している。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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