ことさらに「節目」を言う人がいる。私は人生が過ぎゆくときも黙って見送りたい方なので、国家や人の運命にいちいち節目を感じたり感慨を催したりしない。だが先日、横浜港・大桟橋に近いレストランに座っていて、ふと「この海、この桟橋、船出したのは五十年前だ」とグッと感じた。一九六〇年七月、私は横浜港からアメリカへ向け旅立った。 当時、ジェット旅客機はすでに就航し始めていたが、速いかわり高かった。米国務省は留学生には贅沢だと判断したらしい。われわれ二十数人の若い日本人は、プレジデント・クリーブランド号の三段ベッドの一つ一つを割り当てられ、ドラの音と共に大桟橋を離れた。

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