台湾5大都市選挙で台頭した民進党・蔡英文

執筆者:野嶋剛 2010年12月16日
タグ: 台湾 中国 日本
エリア: アジア
民進党党首の責任を果たした蔡英文(11月30日の記者会見) (C)AFP=時事
民進党党首の責任を果たした蔡英文(11月30日の記者会見) (C)AFP=時事

 台湾5大都市選挙の勝利者は誰だったのか。結論から言えば、野党・民進党であり、同党女性党首の蔡英文だった。  与党・国民党は台北、新北(台北県から昇格)、台中の3市で勝利し、過半数を制したが、得票率では民進党に大きく水を空けられ、敗北に近い内容だった。翌日の朝刊でそのことを明確に指摘できた日本のメディアは少なかったが、国民党内部にはいま、党勢の失速に対する危機感が急速に広がっている。

エリート臭が抜けなかったが……

 1956年生まれの蔡は、丸顔でメガネをかけ、一見、どの学校のクラスにも1人か2人いるような秀才タイプの女性に見える。だが、実際の蔡は気が強く、自意識も強い。何度かインタビューしたが、取材中には質問内容の甘さやポイントのずれをたしなめるような指摘を受けた。記事内容にも文句を言ってきて、「その程度のことでメディアとケンカするべきではない」と助言した側近とも「間違いは間違いよ」と譲らずに衝突した。
 台湾の最高学府、台湾大学の法学部を卒業し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで法学博士を取得した。李登輝総統にアドバイザーとして重用され、陳水扁総統時代にも大陸委員会主任委員、行政院副院長を歴任した。ただ、エリート臭が抜けず、選挙の経験も乏しかった。2008年の総統選敗北後に党首を引き受けてからも、明晰な頭脳は誰もが認めるところだが、政治家としての力量を疑問視する声はつきまとっていた。
 蔡こそが、今回の選挙結果に最も納得し、安心し、自信を深めた人物だろう。蔡にとって今回の選挙は未来の総統候補として独り立ちするうえで欠かせないものだった。蔡は選挙中、かなり太ったようだ。庶民と交わり、選挙運動員と交わり、台湾社会と交わった証拠かも知れない。自身こそ僅差で敗れはしたが、党全体としては久しぶりの躍進を見せ、党勢回復を確かなものにした。選挙戦終盤の蔡の演説や表情は「自分も選挙を戦える」ということを確信したような余裕が読み取れるほど落ち着いたものだった。

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執筆者プロフィール
野嶋剛 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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