国際論壇レビュー

「壁」をめぐる議論――中東紛争とサイバースペース

 日本では小泉首相の靖国参拝問題が大きな関心を呼んだこの八月、中東は血なまぐさく重苦しい夏だった。 恐らくは七月末のイスラエル軍のパレスチナ過激派に対する暗殺作戦への報復としてであろう、八月九日、エルサレム中心部のピザ・レストランで昼食時に自爆テロがおこり十八人が死亡、九十人以上が負傷した。イスラエル軍はただちに報復、東エルサレムにあるパレスチナ解放機構(PLO)事務所「オリエントハウス」を閉鎖し、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンの中心部に戦車部隊を侵入させた。 八月二十七日には、イスラエル軍武装ヘリコプターが、パレスチナ自治区ラマラにあるPLO反主流派で過激派のパレスチナ解放人民戦線(PFLP)の事務所を攻撃、アブアリ・ムスタファ議長が殺害された。これに報復するパレスチナ武装勢力の攻撃がおこり、さらにこれに対してイスラエル軍がパレスチナ自治区ベイトジャラに侵攻するなど、緊張はエスカレートしていった。その後、イスラエル軍はベイトジャラからは撤退したが、依然として緊張が続いている。

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執筆者プロフィール
田中明彦(たなかあきひこ) 1954年、埼玉県生まれ。東京大学教養学部卒業。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。東京大学東洋文化研究所教授、東京大学副学長、国際協力機構(JICA)理事長、政策研究大学院大学学長、三極委員会アジア太平洋地域議長などを経て、2022年4月より再び国際協力機構(JICA)理事長に就任。著書に『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(サントリー学芸賞受賞)、『ワード・ポリティクス―グローバリゼーションの中の日本外交』(読売・吉野作造賞)、『アジアのなかの日本』、『ポスト・クライシスの世界―新多極時代を動かすパワー原理』など。
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