クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

戦後初めて怒った日本人

執筆者:徳岡孝夫 2002年11月号

 橋本龍太郎、村山富市、野中広務はじめ無慮一万三千の日本人が、北京の人民大会堂に集うて日中の友好三十周年を祝ったという。その間も埼玉県では一晩に三件もの金庫の盗難があった。 バールで店の戸をこじ開け、商品棚を押し除けて搬出口を確保しておき、二百キロもある奥の金庫を一気に持ち出して逃げる。五分以内の早わざ。密航シナ人の一団は捕えたが、他に何グループかいるらしい。そういうことは、人民大会堂の食事中、話題にならなかったのか? 拉致は日本人の作り話だと言い続けてきた国が、突然「八人死んだ」「自殺だ」「ガス中毒だ」「墓は流れた」と言った。誰が信じられよう。だが、せめて北京での和やかな談笑の間に、誰かが聞いてほしかった。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top