最初は、几帳面な人だと思っただけであった。しかし自著に掲載されている執務風景の写真を見て、「なるほど」と思った。長さが四メートルはあろうかという大きなテーブルに、届いたファクスやプリントされた電子メールなどがきれいに並べられ、一番手前には予定が書き込まれた月間カレンダーが置かれている。今日なすべき仕事と明日以降へと持ち越される仕事。それらをカレンダーを軸に俯瞰しながら考え方をまとめていく。これは、稀代の広告プロデューサーの癖であり、仕事のノウハウなのだろう。 藤岡和賀夫の仕事を改めて紹介すれば、一九七〇年に「モーレツからビューティフルへ」というキーワードを掲げ、高度成長から「豊かさの時代」への変化を巧みに捉えた企業キャンペーンを企画。また七〇年代から八〇年代の初頭までは「ディスカバー・ジャパン」「いい日旅立ち」「フルムーン」などの国鉄キャンペーンを手がけ、さらには三井物産の企業キャンペーン「三井教養セミナー、学びの出発」や同グループによる海外への日本文化紹介事業「クローズアップ・オブ・ジャパン」で企業の手による文化事業の重要性を世に知らしめた。
この続きは会員登録をすると読むことができます。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。
フォーサイト会員の方はここからログイン