無人機、米国内で犯罪捜査にも使用

執筆者:春名幹男 2012年1月30日
カテゴリ: 軍事・防衛
エリア: 北米

 イラクやアフガニスタン、パキスタンなどでの対テロ戦争を革命的に変えた攻撃用の無人偵察機。今では、米国内での犯罪捜査にも捜索令状なしで使用されている。
これまで、戦争以外の目的でも、メキシコ国境での違法移民捜索や、険しい山岳地帯での行方不明者捜索、ハリケーン情報収集、交通事故現場探し、山火事の状況把握といった作業に使用されてきた。
しかし、犯罪捜査あるいは犯人捜索のための使用は、法律的にも疑義が提起されている。
最も早い段階に犯罪捜査に使われたのはテキサス州オースチン。2009年、同州公共安全局は丘の上にある麻薬売買容疑者宅への捜索前に、容疑者が在宅しているかどうか確認するため、ヘリコプターを飛ばすことを検討した。しかし、容疑者は武器を所持し、ヘリを攻撃する可能性がある、と判断して、無人機による事前調査を決定した。
使われたのは、音が静かでしかも鳥ほどのサイズの「ワスプ」と呼ばれる偵察機。これにより、容疑者の在宅を確認し、特殊火器戦術部隊(SWAT)チームが突入、犯人を逮捕した。これが「無人偵察機」が犯罪捜査に使われた初めてのケースとなった。
昨年にはノースダコタ州で、牛泥棒捜索にプレデターが使われたケースもあった。
両州の当局は、犯罪捜査や犯人捜索に航空機を使用してもいい、との判例を盾に、法的に問題はない、としているが、航空機は大きい音を立て、存在が見えるため、無人偵察機を使用するケースは判例にはならない、とする見方もある。
最近は陸軍が基地外の民間航空領域を使って無人機の飛行訓練を行う例も増え、問題化している。米国は昨年、武器を搭載していない無人偵察機グローバルホークを福島第1原発上空で飛行させたが、無人機の使用増は今後も議論の対象になりそうだ。
 

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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