何ゆえの訪日か?「メルケル独首相」が示した「バランス感覚」の妙

執筆者:佐藤伸行 2015年3月16日
エリア: ヨーロッパ

 3月上旬、ドイツ首相メルケルが来日した。2008年北海道・洞爺湖サミット以来7年ぶりに日本を訪れたわけだが、それほどの空白期間がありながら、メルケルの日程は1泊2日、日本滞在は30時間足らずという強行軍だった。「欧州の女帝」は席を温める間もなくあわただしく過ぎ去って行った印象だ。

 今回のメルケルの訪日の目的は何だったのか。ドイツは先進7カ国(G7)の議長国であり、6月のバイエルン州エルマウ・サミットに向けた事前調整のためというのが公式の説明だった。それはその通りなのだが、メルケルとしては、ドイツが日本を軽視しているとの見方がこれ以上拡散するのを防ぐ思惑があったのは間違いない。近年我が国では、ドイツのアジア政策は極端な中国偏重であり、中国との緊密な関係、頻繁な首脳の往来に比べ、対日関係は等閑視されているとの指摘が高まっていた。こうした日本側の白けた視線に対し、ドイツ当局もそろそろ本格的に手を打つ必要があると判断していた。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
佐藤伸行(さとうのぶゆき) 追手門学院大学経済学部教授。1960年山形県生れ。85年早稲田大学卒業後、時事通信社入社。90年代はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢をカバー。98年から2003年までウィーン支局で旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題を取材した。06年から09年までワシントン支局勤務を経て編集委員を務め退職。15年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)。
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