「英国EU離脱」で生じる「安全保障環境」の変化

執筆者:林吉永 2016年7月11日

 英国のEU(欧州連合)離脱について、6月26日、米国のライス大統領補佐官は、「安全保障に影響はほとんど無い」とコメントした。これは、米国にとってEUよりもNATO(北大西洋条約機構)の存在が重いからだろう。しかし、フランス、ベルギー、トルコ、バングラデシュでテロ事件が発生し、難民の欧州流入があとを絶たない情勢下、欧州の安全保障に無関心であってはならない。

EUとNATOの微妙な関係

 欧州連合部隊(European Union Force:EUFOR)がNATOを補完するという戦略思想については、1998年、ブレア英首相、シラク仏大統領がサン・マロ会談において欧州独自の安全保障政策を強調した。その宣言は、「欧州は新たな危機への取り組みを必要としている。EU諸国は、安全保障分野でNATOを補う独自の協力形態を見出す必要性を確信し、国際的危機に対応できる信頼性のある軍事力と手段に裏付けられた自立的行動のための能力を保有する」と謳い、「米国が関与しないEUの軍事」が浮き彫りにされた。
 
 米国依存が軽減されるとは言え、サン・マロ宣言後にオルブライト米国務長官(当時)が発した「NATOの行動と重複させない。米国とNATOを分断しない。トルコなどのEU非加盟国を差別しない」という文脈は、その後のEUとNATO相互の「良き関係」の楔(くさび)となった。EUとNATOは、アムステルダム条約(1997年)によって拡大された「ペータースベルク・タスク(人道支援・救難任務・平和維持活動・緊急時や和平形成のための軍事派遣)」に関わる欧州の行動を整合させてきたのである。
 それは、2002年の「EU・NATO共同宣言」の「軍事力の結合と相互補完」「NATOが行動を拒否時、EU単独でNATOの組織や制度、資源を使う軍事行動が可能」「情報共有」などの深化に見られてきた。

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執筆者プロフィール
林吉永(はやしよしなが) はやし・よしなが NPO国際地政学研究所理事、軍事史学者。1942年神奈川県生れ。65年防衛大卒、米国空軍大学留学、航空幕僚監部総務課長などを経て、航空自衛隊北部航空警戒管制団司令、第7航空団司令、幹部候補生学校長を歴任、退官後2007年まで防衛研究所戦史部長。日本戦略研究フォーラム常務理事を経て、2011年9月国際地政学研究所を発起設立。政府調査業務の執筆編集、シンポジウムの企画運営、海外研究所との協同セミナーの企画運営などを行っている。
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