連載小説 Δ(デルタ)(2)

執筆者:杉山隆男 2017年4月30日
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

アメリカがセンカクを見捨てる――衝撃的な情報が首相官邸を駆け巡った頃、尖閣諸島海域を遊弋する巡視船「うおつり」に、2隻の漁船が体当たりを敢行。そして漁民風の男たちが乗り移ってこようとしていた。

 

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 甲板を地面に例えれば、管理官や船長がいるブリッジは「うおつり」の3階部分に当たる。その下の2階フロアには船長室や第1公室と呼ばれる来客用の応接会議室がならんでいて、さらに甲板に面した1階には第2公室と名称がついた食堂と、隣接して調理室がある。甲板から高低差なくストレートに食材などの搬入ができるようにするためだ。じっさいデッキからぶ厚い鉄の扉を開けると、通路のすぐ先に調理室はある。船内は火気厳禁なことからガスは使用せず、調理はすべてIHヒーターやレンジなどで行なわれる。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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