連載小説 Δ(デルタ)(9)

執筆者:杉山隆男 2017年6月10日
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

前回までのあらずじ】

自衛隊の秘密部隊デルタに、ついに出動命令が下った。内容は、その存在と同様あくまで秘密裏に作戦を遂行し、「センカク」を奪回すること。たとえ部隊に戦死者が出たとしても、表向きには犠牲者ゼロとなるよう、遺体の収容もデルタで行なうこと。デルタの事実上のトップ・山科1佐は言う。「それが命を落とした隊員の名誉を守ることにもつながるんだ」――。

 

     10

「うおつり」のブリッジから3層分階段を下って、地下1階に当たる下甲板フロアに下りた張和平(ヂャン フーピン)は、ドアの上に、装具室とプレートの貼られた部屋に入っていった。カラシニコフを構えながら、室内に人影や物音がしないのをとりあえずたしかめると、手当たりしだいロッカーの名札を見て回った。うろ覚えの記憶を頼りにそれっぽい文字を探して、と言いたいところだが、どんな文字だったか、すでに記憶は曖昧になっている。

カテゴリ: 政治 カルチャー
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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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