【前回までのあらすじ】
突然の銃声に気をとられ、巡視船「うおつり」の特警隊員・市川に取り押さえられた、「愛国義勇軍」の最年少兵士・張。その耳に入ってきたのは、乗っ取り仲間であるはずの謝と呉の、仲間割れともとれる激しいやり取りだった。それを聞いているうちに、張の目から涙があふれてきた。
12
張和平(チャン・ヘーピン)は幼い日々を思い出したのだ。早くに両親を亡くし、祖父母に育てられた張にとって、近所に住んでいた劉一家は家族同然の絆でむすばれた存在だった。張のことをはるか年下の弟のように何くれとなく面倒をみてくれたのは、日本の高校に当たる高級中学にすでに進んでいた、ひと回り違う勝利(ションリー)だったが、彼の両親もまた張をルールーの愛称で呼び、我が子同様に可愛がった。ひとりっ子政策の締めつけでこれ以上の子供は望めない勝利の両親からすれば、愛くるしい笑顔でなついてくる張はまさしく2番目の息子だった。夕食はたいてい劉家で勝利母子と一緒に食卓を囲み、そのまま寝入って泊ってしまうこともしばしばだったが、家に帰るとき劉の母親はいつも年老いた張の祖父母のためにさまざまなみやげを持たせていた。その中にそれとなく忍ばせておいた現金がわずかばかりの年金に頼って食うや食わずの生活を送っていた祖父母にとって家計のかけがえのない支えとなったことをのちに張は2人から教えられる。
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