【特別連載】引き裂かれた時を越えて――「二・二六事件」に殉じた兄よ(5)勝雄、陸軍幼年学校へ
〈或る冬の寒い日、私が雪に足をとられ乍ら小学校から帰ると、家の入り口に立派な一頭の馬がつながれていました。
私は馬がこわくて家に入れず、まごまごしていると、何に驚いたのか、いきなり馬が飛び上がり、結んでいた綱が外れて走り出しました。
私は驚いて大声を上げました。すると家の中から軍人が出てきて、あわてて逃げる馬を追いかけていきました〉
この連載の主人公、波多江たまさん(青森県弘前市で今年6月、104歳で死去)は、7歳になって間もない1920(大正10)年の暮れか、翌21年初めの出来事だった――と、自らの記憶を掘り起こしたノートにつづった(勝雄の遺文や書簡、家族の手記などをまとめた自費出版本『邦刀遺文』=1991年=の下書きとしたノート類)。
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