【提言】「対新型コロナ戦争」に即して「防衛関係費」を活用せよ

執筆者:林吉永 2020年5月1日
エリア: アジア
F35戦闘機(写真)を、新型コロナ蔓延の今慌てて購入する必要は……(航空自衛隊HPより)

 

 筆者は、航空自衛隊員として35年間勤務した。従って、航空自衛隊の応援をして然るべきである。

 しかし、ここでの提言が、「空自を強くするどころか、足を引っ張る」ことになり、筆者自身にとって、古巣に対する裏切りに等しい感情を湧き立たせる悩ましい内容であることを前もって断っておく。

今こそ「最高度の我慢」を

 日本では、先の戦争から75年経過しても敗戦のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が消えず、自衛隊を「軍隊として認知する」ことに拒否反応が強い。

 その時代精神に過敏な自衛隊では、自ら「旧軍と距離を置く」PTSDに罹患し、多くの軍事用語をタブーとした。「戦時」ではなく「有事」と言い社会的批判を憚(はばか)る例はその典型である。

 他方でその好対照となっているのは、自衛隊と距離を置く識者が、「新型コロナウイルス」対処を「戦争」と言い、「今は戦時」と言っていることだ。

 日本が世界に挑戦した先の戦争において、国民は、「欲しがりません勝つまでは」の合言葉で何もかも切り詰め、我慢して「戦時一辺倒」の生活を強いられた。

 政治が「戦時」と言うならば、「対新型コロナ戦争」に勝つためには、「今」こそ、「最高度の我慢」を強いていいのだが、ポピュリズムに陥り、「お願い」言葉だけが躍っている。

 一方、戦争の恐怖と常に向き合ってきた国の多くは、新型コロナをせん滅するまで、「戦時下の統制=戒厳令」同様の環境を作為し、その国では、「統制」の不服従に厳しいペナルティーを科しているのだ。

 当該国民は、「勝つために国が行う忍耐の強制」を当然と受容して新型コロナに対峙しており、その成果も著しい。それらの国では、忍耐の継続によって生ずる異常な「戦時下の環境」を克服する国民相互の扶助、思いやり、感謝が表れている。

 国民の忍耐に伴う不自由や困窮に対して、日本では、国が行う救済事業として、1人10万円の「特別定額給付金(仮称)」を支給することになった。その総額は、「借金」が増える悩ましい国家支出で賄い、約13兆円に達する。

 先の戦争において、国家予算は「軍事費」が最優先され、日本国民は、草の根を食する極限の、私生活が切り捨てられる耐乏生活を強いられた。

 他方、「今」を考えるに、「対新型コロナ戦争のための軍資金」には、「既得予算」の削減や凍結は考慮されず、「新規の借金」を積み重ねている。

 通常経費の削減や節約、あるいは凍結は、国民に求める以前に、国家や公僕自ら率先垂範すべき政策である。

「不要不急」の防衛費は「後ろ倒し」を

 中でも防衛予算は、代表的なイッシューだろう。

「今」、日本が、喫緊にどこかの国相手の戦争準備をしなければならない情勢に差し迫られているとは考えられない。今日・明日、今年・来年に「日本自ら武力行使する戦争勃発」の蓋然性は「ない」に等しい。

 然るに、「2020年度防衛予算の見直し」を早急に実施し、僅かであっても、「現に戦っている『対新型コロナ戦争の軍資金』に振り替える」ことを提案したい。

 防衛力整備の必然と緊急性に迫られていないならば、予算は、後ろ倒しすればよい。

 過去、民主党政権時には、説得性もなく「工事中の八ッ場ダム建設」が中止された。ところが、政権交代した自民党は、災害予防などを含む広い視野で工事を復活させた。「手戻り」は多額の無駄を発生させたが、予算の復活が結果よしということになった。

 米国の「4年ごとの国防計画見直し(Quadrennial Defense Review: QDR) 2001」で、「トランスフォーメーション(米軍の世界展開態勢見直し)」開始が宣せられてから20年。米太平洋空軍は4月17日、「グアム配備B52の本土への撤収」を明らかにした(4月18日『時事通信』)。

 このように、トランスフォーメーションは今も進行中であり、「米海兵隊の展開態勢見直し」も同様である。

 米海兵隊の戦略転換で「辺野古が無駄にならないのか」という変化の予測は悩ましく、現在の埋め立て事業を問い直す時期を示唆している。「辺野古飛行場建設」は、現情勢下、「凍結ないし政策見直し」の対象であり、追加予算は「対新型コロナ戦争」に振り替えられるべきだ。

 もちろん防衛力整備には、中断してはならない教育訓練や現有装備の維持などといった必須予算がある。それまでも「切り詰めろ」と言うのではない、政治が口を開けば出てくる「今『不要不急』の行動は控えて」を、そのままこの提言に重ねたい。

「国民」の「回復」を

 令和2年度、F35A戦闘機3機、F35B戦闘機(空母離発艦仕様)6機調達、整備関係経費に1400億円弱の防衛予算が組まれた。施設・設備整備、搭乗および整備員養成、燃料・弾薬搭載を考慮すると、実戦配備所要は2000億円に達するだろう。

 さらに、このF35導入は、約150機が予定されており、しかも、慌てて買わなくてはならない理由が明確ではない。ここでは、導入中止ではなく、現下の状況に優先するものかどうかを問いたい。

 他の国家予算にも、「節減・凍結・先送り」などの対象科目があるのではないか。対新型コロナ「有事」であるからこそ「敵を倒す」大胆な政策上の決断が求められる。勝つためとはいえ、「アベノマスク配給の如き戦力の逐次投入」は最も戒めるところである。

 今最も重要な政策であり、「軍資金」投入を必要とするのは、「国民という最大・最強の防衛力」を健全な状態に回復することである。

 

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
林吉永 はやし・よしなが NPO国際地政学研究所理事、軍事史学者。1942年神奈川県生れ。65年防衛大卒、米国空軍大学留学、航空幕僚監部総務課長などを経て、航空自衛隊北部航空警戒管制団司令、第7航空団司令、幹部候補生学校長を歴任、退官後2007年まで防衛研究所戦史部長。日本戦略研究フォーラム常務理事を経て、2011年9月国際地政学研究所を発起設立。政府調査業務の執筆編集、シンポジウムの企画運営、海外研究所との協同セミナーの企画運営などを行っている。
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