「コロナ」「米中対立」で縮む国際貿易:さらに存在感を増す中国

執筆者:磯山友幸 2021年3月24日
エリア: アジア
対中輸出は「輸送用機器」「電気機器」などが牽引(C)AFP=時事

貿易統計が軒並み前年比マイナスとなる中で、対中輸出だけは昨年夏から急回復。ただし、本当に実需に基づくかは不透明。懸念される地政学リスクは、米政権交代後も消えそうにないという問題が――。

 新型コロナウイルスの蔓延で、国境を超えたモノの動きが急減している。財務省が発表している貿易統計によると、2020年の日本から世界への輸出額と、世界から日本への輸入額の合計である「貿易総額」は136兆円あまりと前年に比べて12.4%減少した。輸出が68兆円と11.1%減、輸入が67兆円と13.7%減った。

 3月の上旬、都内の郵便局の窓口で、高齢の女性が米国に小さな荷物を送ろうとしていた。通常ならば船便より早いSAL便で送るのだろうが、引き受けを停止していると言う。「では船便は」と女性が問うと、局員は「いつ到着するかまったく分からない」と答えていた。昨年4月以降、航空便国際線の大幅な減便などで、国境を超えた貨物輸送が大混乱。郵便も一部引き受けを停止する事態に追い込まれていた。昨年秋頃からは引き受け再開の動きが広がったが、1年近く経った今も混乱は続いている。

 年間を通して輸出も輸入も1割以上減るというのは異常事態だが、リーマンショック後の2009年に比べると影響は小さい。2009年は輸出が33.1%減、輸入が34.8%減とまさに未曾有の減少になった。新型コロナで人の動きが止まったことで、観光などサービス業は大打撃を受けているが、製造業は影響が小さいことや、人々の生活スタイルが変わっても、生活必需品の消費などは変わっていないことが影響を比較的小さくしているのだろう。

アメリカは「輸出相手国1位」からも転落

 だが、国別、製品別に輸出入を見ていると、大きな変化が起きていることが分かる。

 何と言っても、日本の貿易の中で、「中国」が存在感を増していることだ。2020年の中国向け輸出は15兆円と2.7%増えた。中国・武漢で新型コロナが急拡大したことを受けて2020年3月には月間の中国向け輸出額が8.7%減少したが、その後、急回復。7月以降は前年同月比でプラスを続けている。12月は10.2%も増えた。

「6月ごろから中国向けは完全に元に戻り、その後、前年を上回るペースで出荷が続いています。本当に実需なのかは分かりませんが、他の国向けが落ち込んでいるので、助かっています」と長野県の自動二輪向け部品メーカーの社長は言う。

 年間の統計を見ると、中国向け輸出で伸びが大きいのは自動車などの「輸送用機器」の6.0%増や、重電機器や電気計測機器といった「電気機器」の5.3%増など。このメーカー社長の証言を裏付けている。

 輸出が2.7%しか増えていないのに、なぜ中国の存在感が増しているのか。言うまでもなく、他国向けの輸出が大きく落ち込んでいるからだ。

 日本にとって重要な輸出先である米国向けの2020年の輸出額は12兆円あまりと17.3%減った。この結果、中国向け輸出額の15兆円を下回り、日本からの輸出先としては中国が最大の相手国になった。もともと日本の輸入額は中国からが米国からよりも遥かに大きく、輸出と輸入を加えた貿易総額は2007年に中国が米国を抜いて以降、差が開いてきたが、2020年は中国からの輸入が5.2%減だったのに対して、米国からの輸入は13.9%減と落ち込み、差がさらに広がった。

 ただし、貿易収支を見ると、米国との間では約5兆1800億円の日本側の黒字なのに対して、中国との間では2兆3900億円あまりの赤字になっており、日本にとって米国は貿易黒字を稼がせてくれる重要な国であることはまだ変わらない。

鮮明化する「貿易都市・香港」の凋落

 貿易統計は世界の地政学を反映する。世界との月間の貿易総額は2018年10月に14兆9400億円の過去最高を記録したのち、急速に減少している。新型コロナが蔓延する前から日本と世界の貿易には陰りが出ていたのである。その最大の理由は「米中貿易戦争」。米国のドナルド・トランプ前大統領が中国製品の関税引き上げに踏み切ったことを引き金に、関税引き上げ合戦の様相を呈した。

 年間の貿易総額で見ると、2018年に164兆円の過去最多を記録した翌年、2019年は5.3%減の155兆円と9兆円も貿易額が減った。そこに新型コロナが加わり、2020年は2年連続の減少となったわけだ。これがいつになったら平常に戻るのか。

 2009年に105兆円まで激減した貿易総額が2008年の159兆円とほぼ同水準に戻るのに5年、完全に上回るには9年の歳月を要した。新型コロナはいまだに終息の見通しが立っておらず、2021年の貿易総量が果たして下げ止まるかも分からない。一方で、日本経済への影響がボディーブローのように効き始めており、2021年は国内消費の落ち込みから輸入額がさらに減少する可能性もある。

 国家間の対立が貿易額に影を落とす例は、米中問題だけではない。

 世界を代表する貿易都市として知られてきた香港の凋落が鮮明だ。日本から香港向けの輸出額は2015年には年間4兆2300億円と4兆円を超えていたが、2020年は3兆4100億円にまで減少した。民主化運動での混乱に対して、中国政府が民主派への締め付けを強めた結果、従来の一国二制度が守られない状況に直面。西側諸国が貿易上の最恵国待遇を取り消すなど対抗措置を強めた。こうしたことが日本から香港向けの輸出減少につながったと見られる。さらに新型コロナの世界的な蔓延で、香港の主要産業である観光が大打撃を被り、それに関した商品の香港向け輸出も落ち込んでいる。

 高級時計で知られるスイスの時計輸出の最大の向け先は、戦後長い間、香港がトップだったが、スイス時計協会の統計によると、2020年の香港向け輸出額は16億9670万スイスフラン(約1986億円)と36.9%も減少、世界3位に転落した。2019年まで香港に次ぐ2位は米国の指定席だったが、20%も一気に増えた中国大陸向け輸出が23億9400万スイスフラン(約2800億円)と世界トップに躍り出た。米国は17.5%減の19億8670万スイスフラン(約2326億円)と2位のまま変わらない。

 ちなみにスイス時計輸出の総額は169億8410万スイスフラン(約1兆9884億円)と21.8%も減少した。高級品消費が全世界で激減している中で、中国本土が存在感を高める一方、香港が凋落していることを如実に示す結果になった。

 日韓関係の冷え込みも貿易数値に鮮明に表れている。2020年まで韓国向け輸出は3年連続の減少、輸入も2年連続減少している。輸出入合計は2018年に9兆3000億円に達していたが、2019年に11.5%減少、2020年も8.0%減って7兆6000億円となった。日本政府による半導体材料の対韓輸出規制強化で日本製品の不買運動が起きたことに加えて、徴用工問題で日本企業の資産を差し押さえる最高裁判決が出たことで、韓国向け事業を手控える動きが広がっている。

 政府は反日色を強める韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権との関係を冷淡に見つめる姿勢を貫いており、関係修復の兆しは見えない。

 今後、世界貿易の中での中国の存在感はいやが上にも高まることが予想される。一方で、米国はジョー・バイデン大統領に代わっても対決色を薄めないことが明らかになった。中国との間では日本もかつてに比べれば関係は改善しているものの、尖閣諸島問題は引き続きの懸案で、貿易で一気に中国依存を高めることができる政治情勢にない。

 ワクチン接種の広がりなどで新型コロナが終息過程に入り、輸出での頼みの綱である米国向けが早期に回復してくるか。あるいは、連携を深めるインドや豪州、台湾などとの貿易拡大が見込めるかどうか。輸出産業を多く抱える日本経済への影響は大きいだけに、目が離せない。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト活動とともに、千葉商科大学教授も務める。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。
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