裂けた明日 (3)

連載小説:裂けた明日 第3回

執筆者:佐々木譲 2021年5月15日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:EPA=時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

民間防衛隊に追われる旧友の娘の訪問を受けた信也。その胸に過去の記憶が去来する。

[承前]

「まず上がって、奥で休んで」

「ありがとうございます」

 ふたりは、勝手口の三和土に身体を入れた。背中に荷を背負っている。娘は運動着のような服を着ていた。もしかすると、仙台からの道のりの大半を歩き詰めだったのかもしれない。幹線道路をはずれ農道や山道を使って。

 酒井真智が、娘だという子供の背を押して、靴を脱がせ、台所に上らせた。ついで自分自身も。信也は、裏庭で湯をわかしていることを思い出した。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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