仮想通貨犯罪は「金融包摂」のダークサイドにほかならない

執筆者:滝田洋一 2021年6月14日
エリア: その他
「ワナクライ」以降、身代金として仮想通貨を要求するランサムウエア攻撃が激増した(2017年撮影) ⓒ時事
差別や貧困で取り残された人も金融サービスにアクセスを――「金融包摂」の理想を追えば、管理に余った闇の領域も拡大する。米コロニアル・パイプラインを攻撃した犯罪集団「ダークサイド」は、そんな状況の鬼子と言える。サイバー攻撃の身代金に、エルサルバドルの法定通貨にと仮想通貨が存在感を増す背景には、足元のインフレリスクという爆弾を抱えながら新時代への対応にも苦しむ既存通貨システムの姿がある。

 全米を震撼させたパイプラインへのサーバー攻撃。米コロニアル・パイプラインが運営する燃料パイプラインが5月初旬に、ロシアまたは東欧を拠点にするとされる犯罪集団「ダークサイド(DarkSide)」によるランサムウエア(身代金ウイルス)攻撃を受け、燃料供給がストップした。コロニアル社はシステム復旧のために、440万ドル(約4億8000万円)相当の身代金を支払ったとされる。

 440万ドル相当と「相当」の2字を記したのはほかでもない。ドルなどの現金ではなく、暗号資産(仮想通貨)のビットコインでの支払い要求だったからだ。100万ドルならぬ440万ドルを取り返せ。それから1カ月たった6月7日、米司法省は犯行グループに支払われた身代金の大半を奪還したと発表した。

カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
滝田洋一(たきたよういち) 1957年千葉県生れ。日本経済新聞社特任編集委員。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」解説キャスター。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了後、1981年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部編集委員、米州総局編集委員などを経て現職。リーマン・ショックに伴う世界金融危機の報道で2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。複雑な世界経済、金融マーケットを平易な言葉で分かりやすく解説・分析、大胆な予想も。近著に『世界経済大乱』『世界経済 チキンゲームの罠』『コロナクライシス』など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top